10,000円の商品を1,000円とサイトに表示してしまった!EC運営者の責任は!?【価格誤表示と対策】

価格誤表示

 以前、お客さん(購入者側)の誤操作・誤入力があった場合に備えて、ECサイト運営者がとるべき措置についての記事を書きました。
今回は、EC運営者が、商品等の価格を間違えてしまった場合について、記載したいと思います。
こんなことなさそうで意外とあるのがこのお話。0を一つつけ忘れていた問題です。
特にECの場合、一つ売っても気がつかず、しばらく放置される(あってはならないことなんですが。。。)ということもしばしばありますし、ネットで情報が拡散されることもあるので、「短時間にめっちゃ売れた!すげー!!」なんて思っていると実は、価格が間違っていたなんて場合もありますので、ご注意ください。

かなり長文になってしまったので、対応策だけ知りたいという方は、目次の「3 まとめ(具体的な対応策)」の部分だけお読みください。

 それでは、実際にサイト運営者に価格の誤表示がある場合、どのようなことが起こるでしょうか。やっぱり、その間違えた値段で販売しなければならないのでしょうか。

1 契約の構造(契約の成立と有効性)

 今回のサイト運営者側の価格の誤表示がどのようになるかについては、実はこの契約構造を理解した上でないと対応方法を検討できません。なので、ここで簡単に説明させていただきます。

1.1 契約の成立要件

 このサイトでは、耳にタコができるぐらいお伝えしているように、契約は、買い手(申込者)の申込の意思の表示(「これを〇〇円で、売ってください。」)と売り手の(承諾者)の承諾の意思の表示(「これを〇〇円で、売りましょう。」)が一致した場合に成立します。これを法律的にいうと「契約の成立要件」なんていったりします。
このように契約がひとたび成立すれば、当事者(「買い手」と「売り手」)は、その契約内容に、「特別な事情がない限り」拘束されることになります。

1.2 契約の有効要件

 「特別な事情がない限り」!???なんですかこれは!?と思ったさっし良い方もいらっしゃると思いますが、そうなんです。契約が成立したとしても、その契約が当事者を拘束しない場合があります。
これが、「契約は成立しているけど、無効(効力がない。)です。」というやつです。
この「特別な事情がない」という要件を法律的には、「契約の有効要件」なんて呼んだりします。
冒頭で挙げたお客さん(購入者側)の誤操作・誤入力があった場合に備えて、ECサイト運営者がとるべき措置についての記事にでてくる錯誤無効(民法95条)というのは、まさにこの「有効要件」の問題です。つまり、意思の「表示」自体は一致してる(契約の成立要件)してるけど、片方(売り手又は買い手)の「内心の意思」と「意思の表示」が異なる(ズレている。)という「特別な事情が」あるので、無効(効力がない。)になる場合がありますよってことです。

2 価格誤表示がある場合の法律的帰結

 それでは、価格誤表示がある場合の法律的帰結を見てみましょう。

2.1 契約が成立しているか(成立要件との関係)

 まず、価格誤表示の場合、契約が成立しているといえるでしょうか。「買い手」が1,000円と記載のある商品を買いたいと申し込んだ(申込みの意思の表示)場合に、ウェブ画面や自動返信メールで「売り手」(サイト運営者)が「お申込みを承りました」等の表示(承諾の意思の表示)がなされれば、「1,000円という価格」で意思の表示の一致がありますので、契約が成立してしまいます。なので、特別な事情がない(「有効要件」)限り、サイト運営者は、1,000円で商品を販売しなくてはなりません。
 ただし、以前ECサイトにおける契約の成立時期についての記事を書きましたが、申込後のウェブ画面で「ありがとうございます。受注可能な場合には改めてメールをお送りします」等の表示をしている場合には、メールを送ることが承諾の意思の表示になりますので、それまで契約は成立していません。なので、この場合は、契約の成立要件がないということで、メールをするまでに誤表示に気づけば、サイト運営者は、1,000円で商品を売る必要はなくなります。

2.2 契約が有効か(有効要件との関係)

 ただ、多くのECサイトの場合、ウェブ画面や自動返信メールで承諾の意思を表示していると思います。契約を早く成立させることは、サイト運営者側にとっても有利な場合が多いです(「売り」を早期に確定させたいという意味で)からね。
その場合、上記の通り、契約は成立しているということで、特別な事情がない(有効要件)限り、1,000円で商品を売らなくてはなりません。
しかし、今回は「1.」で記載した「錯誤無効」(民法95条)として有効要件を欠くことにならないでしょうか。

(錯誤)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

2.2.1 民法95条の適用

 まず、この場合、運営者側(売り手)は、10,000円で売ろうと思っていた(内心の意思)のにもかかわらず、1,000円という意思の「表示」をしているので、「内心の意思」と「意思の表示」にずれがありますので、「錯誤」があるといえるでしょう。
しかし、この以前の記事でもでてきますが、民法95条の但書(2文目)に「重大な過失があった」ときは、錯誤無効は主張できないとされています。今回の場合、0の一つつけ間違いなんて、とんでもミスなので、「重大な過失があった」とされる場合が多いでしょう。
 ただし、右往左往して申し訳ないです。ここは法律の解釈としてなのですが、この但書は、錯誤に重大な過失があるものを保護して、相手を犠牲にするのってどうなの!?って考え方からきています。そこで、裁判所は、そうなんだけど、錯誤の存在を知っていた者が相手なら、その相手を保護する必要もなくね!?っていっています。
つまり、サイト運営者には、「重大な過失」があるけど、もしお客さん(「買い手」)が価格表示に錯誤があることを知っていたと認定できる場合には、錯誤で無効と言えるよ。だから、1,000円で販売しなくても良いよということになります。
 
 

2.2.2 お客さんが錯誤があると知っていたと認定できる場合

 例えば、相場が100,000円前後の新品のブランド財布が、1,000円と表示されていた場合、多くの人は、誤表示だな(偽物で安いと思った等は別にして)ということを認識すると思います。このように、明らかに相場よりも価格が著しく安い場合には、お客さんが錯誤があると知っていたと認識できる場合と言えるでしょう。
他には、新品の液晶モニターが、1,000円と表示されている場合でしょうか。
 

2.3 法律的帰結まとめ

①承諾の表示がまだなされていない等で契約が成立していない場合又は、誰から見ても明らかに価格誤表示である場合には、誤表示価格で販売する必要はない
 
②それ以外の場合は誤表示価格で販売しなければならない。

3 まとめ(具体的な対応策)

 上の①、②が価格誤表示の場合の法律的な帰結になります。

しかし、当然の話ですが、誤表示を防ぐ方法を模索することが有意義ですよね。ミスは誰でもするものですので、誤表示をしてしまったとしても、反省して落ち込む必要はないと思います。

反省してもあまり意味がないので、それよりも仕組み(システム)作りをしましょう(これが「反省」でしょっという意見もあると思いますが)。

3.1 誤表示そのものを防ぐ方法

 商品の定価と実売価格を両方記載(定価をサイトに表示されるようにするかは別として)するようにするという方法が考えられます。余りに両者の価格がかけ離れている(1桁違う等)の場合には、プログラム上アラートがでるように設定する等しておけば、より万全でしょう。同一機会に2度価格を意識する仕組みを導入すれば、かなりミスを防ぐことができます。

なお、これは私自身の経験上の話ですが、作成者と確認者を分けてダブルチェックにするという方法が思いつくと思うのですが、この方法は、責任を分散させてそれぞれの主体性を奪う(「誰かがチェックしてくれる」や「まさかここはミスしてないでしょ」)ことに繋がるのでお勧めしません(あくまでも私の私見ですが。)。1人でチェックしきれる仕組みの方が、この問題については優れていると思います。

3.2 短時間の大量申込みを通知する方法

 ECサイトで販売をしていれば、ある程度、期間あたりの申込みが予想できるようになります(予想できないくらい売れれば最高ですが)。なので、短時間で、自分のサイトには見合わない大量の申込みがあった場合には、アラートメールが送信される等のシステム設計をしておくことをお勧めします。これは、誤表示をしてしまった場合を想定したものですが、被害を最小限に抑えるために必要なことではないでしょうか。

3.3 利用規約や自動返信メールにおける方法

 利用規約や自動返信メールに明らかな誤表示がある場合には、注文を取り消す旨の記載を入れておく方法です。これも誤表示が起こってしまった場合に備えたものです。上記の通り、明らかな誤表示の場合は、錯誤無効だから必要ないのでは!?という意見もありますが、その後のお客さんからのクレームを減らしたり、信頼を維持したりするためには、このような記載をしておくことには一定の効果があります。
 
すみません。
 
めちゃくちゃ長文になってしまいましたが、ECサイト運営者の方の参考にしていただければ幸いです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

ピクト法律事務所

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