牛乳やチーズ等(乳類・乳製品)をIT(インターネット)サイトで販売するのに法律上必要な許可手続き【弁護士が教えるECスタートアップに必要な手続き③】

乳食品販売_許可

 前回から引き続き、個別食品をEC運営者(事業者)が、特定の食品を仕入れて、EC(IT取引)サイトで販売するために必要な許可・届出等についての記事を書いています。
 今回は、前回のお肉関連の記事に続き、牛乳等の乳関連食品を仕入れて、販売する場合に必要な手続きについて書きたいと思います。
 なお、今回の記事も牛乳等を製造又は加工するのではなく、仕入れて、EC(IT取引)サイトで販売する場合についての記事なので、ご注意ください。また、当記事は、国内で仕入れ販売をする場合の法規制について書いていますので注意して下さい。輸入で仕入れる場合には、他の法規制がありますので、それは別記事で書きたいと思います。

目次

1 牛乳等をEC(IT取引)サイトで販売するために必要な許可

 食品の許可・届出一覧に関する記事での記述とフローチャートを見ればわかるように、乳が関わる食品に必要になりそうな許可・届出は、「乳類販売」や「食料品等販売業(うち乳製品)」や「アイスクリーム類販売」があります。

1.1 「乳類」販売として、法律(食品衛生法)上の必要な許可

 食品衛生法上の「乳類販売」とは、直接飲用に供される牛乳、山羊乳若しくは乳飲料等又は乳を主要原料とするクリームを販売することをいいます。
 ですので、直接飲用に供される牛乳や生クリームを仕入れてEC(IT取引)サイトで販売することは、食品衛生法上の「乳類」販売業にあたりますので、食品衛生上の許可が必要となります。具体的にいうと、生乳、牛乳、低脂肪牛乳や加工乳等です。

 
 ただし、「保存性のある容器に入れ、115℃以上で15分間以上加熱殺菌したもの」は例外的に許可は不要とされています。これは、缶入りの乳飲料が例として挙げられます。それ以外はほとんどないと考えて良いでしょう。

1.2 「乳製品」を含む「食料品等販売」として条例上必要な許可(東京)

 前々回の食品の許可・届出一般についての記事の「3.2」もあわせてご覧になってほしいのですが、チーズ、練乳、バター等の「乳製品」を販売することについては、東京都の場合、食品製造業等取締条例で許可が必要とされています。

 ただし、「ⅰ販売時における温度管理が不要な食品であって、ⅱ容器包装に入れられた食品のみをⅲ仕入れた状態のまま販売する場合」には許可が不要となるので、粉チーズのような常温保存可能なものは、例外的に許可が不要となります。

1.3 「乳製品」及び「アイスクリーム類販売」として、食品衛生法細則上必要な届出(報告)

 

1.3.1 「乳製品」を含む「食料品等販売」として条例の許可が不要な場合の届出

 上記「1.2」の2段落目で、条例上の許可が不要な場合が書かれていますが、この場合でも、営業を開始して10日以内に保健所に届出をする必要があります。
 これは、ⅰ営業所所在地、ⅱ名称、屋号又は商号、ⅲ営業の種類、ⅳ営業設備の大要を記載して提出すれば足ります。あくまで、届出なので、審査等があるわけではありません。
 

1.3.2 「アイスクリーム類」にあたる場合の届出

 次に、「乳」が使われているアイスクリームを販売する場合には、「1.2」の条例上の許可が必要・不要どちらの場合にでも、営業を開始して10日以内に保健所に届出をする必要があります(運用としては、許可を得ている場合はあえて届出を求めない場合もあるようですが、法律上は必要な届出となります。)。
 

1.3.3 届出の内容等

 届出の内容ですが、ⅰ営業所所在地、ⅱ名称、屋号又は商号、ⅲ営業の種類、ⅳ営業設備の大要を記載して提出すれば足ります。あくまで、届出なので、審査等があるわけではありません。営業を開始して、10日以内に提出すれば良いということになります。
 許可・届出が必要な場合が複雑になりましたが、混乱してしまいそうになったら、こちらの記事フローチャートでご確認ください。

2 許可等の流れ

 ここの部分は、「食肉」に関する部分と同様になりますので、以下「食肉及び食肉製品に関する記事」「2」の引用です。

2.1 行政に事前相談をしよう!

 まず、食品衛生法上の許可を得るためには、下にも書きました通り、施設の基準等があります。ですので、施設工事直行前に、施設の設計図や現状についての資料等を持参して、問題がないかチェックしてもらいましょう。施設工事を行ってから問題があると大変なので、営業所を保管する保健所の食品衛生担当者に事前相談はしておいた方がよいでしょう。

2.2 営業許可申請書類を提出

 事前相談で問題がなければ、営業許可申請書類を提出しましょう。必要な提出書類は以下の通りです。
 

2.2.1 個人の場合

①営業許可申請書1通、②営業設備の大要・配置図2通、③許可申請手数料(自治体により異なりますが、概ね15,000~20,000円)④食品衛生責任者の資格を証明するもの、⑤水質検査成績書(※貯水槽使用水、井戸水使用の場合)

 

2.2.2 法人(会社等)の場合

①営業許可申請書1通、②営業設備の大要・配置図2通、③許可申請手数料(自治体により異なりますが、概ね15,000~20,000円)④登記事項証明書1通⑤食品衛生責任者の資格を証明するもの、⑥水質検査成績書(※貯水槽使用水、井戸水使用の場合)

2.3 施設完成の確認検査

 施設が、下記の基準を満たすがどうか、保健所が施設の確認検査をすることになります。ここでもし、条件にあわない事項があると許可をもらえないため、すぐに改善し再検査をうけましょう。

2.4 許可証の交付と営業開始

 「2.3」の検査の結果、問題がなければ、許可書の交付がなされます。だいたい確認検査から2~10日以内には許可書が交付されることになります。
 この許可書の交付を受けて初めて営業を開始できます。営業を始めたら、下記の食品営異性責任者の名札を見やすい場所に掲示しましょう。

3 「乳」関連食品販売の許可基準(どんな条件を満たせば、許可がもらえるか)

 包装済みか否かによって基準が変わってきますので、分けて基準を説明していきたいと思います。ここの部分も、食肉の場合と共通する部分は引用をします。
 ここで注意して頂きたいのは、「1.1」の「乳類」販売の場合には、包装済みであったとしても、「陳列ケースによる店頭販売のみ」「3.2」の緩やかな基準が適用されます。ですので、EC(IT取引)サイトによる販売の場合に「3.2」の基準が適用されるのは、「1.2」「乳製品」の販売の場合で、包装済みの食品販売の場合のみです。

3.1  包装済みの乳関連食品だけでなく、小分け等して販売する場合(原則的な基準)

3.1.1 営業施設の構造(「乳類販売」と「食料品等販売」と共通)

場所清潔な場所
建物鉄骨、鉄筋コンクリート、木造作り等十分な耐久性がある構造
区画使用目的の応じて、壁、板等により区画
面積取扱量に応じた広さ
タイル、コンクリート等の耐水性材料で排水が良く、清掃しやすい構造(床こう配1/50~1/100が適当)
内壁床から1メートルまでの耐水性で清掃しやすい構造(床と壁が交わる隅は丸みをつける)
天井清掃しやすい構造(配管ダクト、照明器具等が露出しないこと)
明るさ50ルクス以上
換気ばい煙、蒸気などの排除設備(換気扇等:ダクトによって屋外に廃棄する場合には近隣に迷惑にならないように高さや方向に注意する。)
周囲の構造周囲の地面は、耐水性材料で舗装し、排水がよく、清掃しやすい構造
洗浄設備原材料、食品や器具等をあらうための流水式洗浄設備(目安として、45㎝(幅)×36㎝(奥行)×18㎝(深さ)以上が望ましい。)
従業員専用の流水受漕式手洗い設備と手指の消毒装置目安として36㎝(幅)×28㎝(奥行)以上で、蛇口は、足踏み式、ハンドコック等が望ましい。
更衣室清潔な更衣室または更衣箱を作業場外に設ける。

3.1.2 食品取扱設備(「乳類販売」と「食料品等販売」と共通)

器具等の整備取扱量に応じた数の機械器具および容器包装
器具等の配置移動しにくい下階器具等は、作業に便利でで、清掃や洗浄をしやすい位置に配置
保管設備原材料、食品や器具類等を衛星的に保管できる設備(食器戸棚や器具保管庫等の戸を必ず設置)
器具等の材質耐水性で洗浄しやすく、熱湯、蒸気又は殺菌剤等で消毒可能なもの
運搬具防虫や防塵じん、保冷できる清潔な食品運搬具を備える。
計器類冷蔵、殺菌、加熱、圧搾等の設備には、見やすい個所に温度計及び圧力計を備える。必要に応じで、計量機を備える。

3.1.3 給水及び汚物処理(「乳類販売」と「食料品等販売」と共通)

給水設備         水道水又は飲用に適していると認めれる水を豊富に供給できるもの
       
※貯水槽は衛生上支障のない構造。ただし、島しょ等で飲用に適した水を得られない場合には、ろ過、殺菌等の設備を設ける。貯水槽や井戸水を使用する場合は年1回以上、水質検査を行い成績書を1年間保存
便所
作業場に営業のない位置や構造で、従業者に応じた数を設け、使用に便利なもので、ネズミ族、昆虫等の防除設備、専用の流水受槽式手洗い設備、手指の消毒装置を設ける。
汚物処理設備
ふたがあり、耐水性で十分な容量があり、清掃しやすく、汚液や汚臭が漏れないもの
清掃機具格納設備
作業場専用の清掃機具と格納設備

3.1.4 「乳類販売」のみに必要な条件

冷蔵設備乳類を常に10℃以下に保存できる冷蔵設備を設ける。ただし、常温保存可能品のみを販売する場合は不要
運搬用具製品及び汚染空瓶用それぞれ別個に備える。
空瓶置場設置する。

3.1.5 「食料品(乳製品)等販売」のみに必要な条件

・取扱量に応じた陳列ケース及び取扱器具を備えること
・冷蔵設備は、常に5℃以下(食品によってはそれ以下の場合もあり。)に冷却できる能力を有すること
・運搬容器はふたがあり、専用のものであること
・発酵乳又は乳酸金飲料を扱う場合は、汚染防止の設備をした空き瓶置場が設けられていること

3.2 包装済みの乳関連食品だけ販売する場合

 上記「3.1」が、乳関連食品販売をするために必要な施設基準なのですが、包装済みの食品を販売するというだけであれば、条件が緩和されます。調理等一切しないわけですから、換気や洗浄設備、食品取扱設備等について条件が不要になったり、緩和されています。

3.2.1 営業施設の構造(包装済み乳関連食品のみの販売の場合)

場所清潔な場所
建物鉄骨、鉄筋コンクリート、木造作り等十分な耐久性がある構造
区画使用目的の応じて、壁、板等により区画
面積取扱量に応じた広さ
タイル、コンクリート等の耐水性材料で排水が良く、清掃しやすい構造(床こう配1/50~1/100が適当)
内壁床から1メートルまでの耐水性で清掃しやすい構造(床と壁が交わる隅は丸みをつける。)
天井清掃しやすい構造(配管ダクト、照明器具等が露出しないこと)
明るさ50ルクス以上
周囲の構造周囲の地面は、耐水性材料で舗装し、排水がよく、清掃しやすい構造
従業員専用の流水受漕式手洗い設備と手指の消毒装置目安として36㎝(幅)×28㎝(奥行)以上で、蛇口は、足踏み式、ハンドコック等が望ましい。
更衣室清潔な更衣室または更衣箱を設ける(作業所外である必要はない。)。

3.2.2 食品取扱設備(包装済み乳関連食品のみの販売の場合)

保管設備食品を衛星的に保管できる設備
運搬具防虫や防塵じん、保冷できる清潔な食品運搬具を備える。
計器類冷蔵等設備には、見やすい個所に温度計を備える。

3.2.3 給水及び汚物処理(包装済み乳関連食品のみの販売の場合)

給水設備         水道水又は飲用に適していると認めれるミスを豊富に供給できるもの
       
※貯水槽は衛生上支障のない構造。ただし、島しょ等で飲用に適した水を得られない場合には、ろ過、殺菌等の設備を設ける。貯水槽や井戸水を使用する場合は年1回以上、水質検査を行い成績書を1年間保存
便所
従業者に応じた数を設け、使用に便利なもので、ネズミ族、昆虫等の防除設備、専用の流水受槽式手洗い設備、手指の消毒装置を設ける(作業場に営業のない位置や構造である必要ない。)。
汚物処理設備
ふたがあり、耐水性で十分な容量があり、清掃しやすく、汚液や汚臭が漏れないもの

3.2.4 「乳類販売」のみに必要な条件

冷蔵設備乳類を常に10℃以下に保存できる冷蔵設備を設ける。ただし、常温保存可能品のみを販売する場合は不要
運搬用具瓶に入れられた食品を取り扱う場合は、製品及び汚染空瓶用それぞれ別個に備える。
空瓶置場瓶に入れられた食品を取り扱う場合のみ、設置する。

3.2.5 「食料品(乳製品)等販売」のみに必要な条件

・取扱量に応じた陳列ケースを備えること
・冷蔵設備は、常に5℃以下(食品によってはそれ以下の場合もあり。)に冷却できる能力を有すること
・運搬容器はふたがあり、専用のものであること
・瓶に入れられた発酵乳又は乳酸金飲料を扱う場合は、汚染防止の設備をした空き瓶置場が設けられていること

3.3 食品衛生管理者(「3.1」と「3.2」共通)

 「乳類販売」か「乳製品販売」否か、包装済み食品の販売のみか否かにかかわらず、「食品衛生管理者の資格」を持ったものが必要があります。以下、当サイトの食肉に関する記事と同一なので、引用です。

詳細は都道府県により、若干異なりますが、「公衆衛生学」、「衛生法規」、「食品衛生学」の講座を6時間程度受講することで資格を得ることができるのです。
 東京の場合は、社団法人東京都食品衛生協会ホームページで日程等の詳細を確認できます。
 また、

栄養士、調理師、製菓衛生師、と畜場法に規定する衛生管理責任者、と畜場法に規定する作業衛生責任者、食鳥処理衛生管理者、船舶料理士、食品衛生管理者もしくは食品衛生監視員となることができる資格を有する者

については、講習を受ける必要はありません。
 なお、ここにいう「食品衛生責任者」は、食品衛生法によって、一定の業種に必要となされる「食品衛生管理者」とは異なりますので、注意して下さい。

4 まとめ

 少し複雑になりましたが、以上が「乳関連商品」を販売をスタートする場合の法規制です。「乳関連商品」を仕入れて、EC(IT取引)サイトで販売(仲介等ではなく)したいという場合には、ご注意くださいね。

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

ピクト法律事務所

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