マッチングサイトで意外と忘れがちな電気通信事業の届け出

マッチングサイトにおいては、ユーザー間で自由にやり取りができるチャットはとても便利ですよね。

実は、このチャット機能を提供するために、国(総務省)に対する届出が必要な場合があることを知っていますか?

今回は、電気通信事業の届出について、その要件や手続きをご説明します。

1 届出が必要な電気通信事業とは

届出が必要な電気通信事業かどうかは、以下のようなイメージで判断されています。

電気通信事業の届出

順に詳しく見ていきましょう。

1-1 電気通信事業

電気通信事業とは、「電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業」(電気通信事業法2条4号)のことをいいます。

そして、電気通信役務とは、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」をいいます。

電気通信設備というのはサーバー等のことですね。

「他人の通信を媒介する」とは、簡単に言うと、他人の依頼を受けて、情報の内容を変更することなく、伝送などすることをいいます。

電子メールサービスや、クローズドチャットは「他人の通信を媒介する」ものといえます。

一方で、電子掲示板やオープンチャットについては、「他人の通信を媒介する」ものではありません。
もっとも、「他人の通信の用に供する」ものとはいえます。

したがって、メールサービス、チャット機能、電子掲示板はサーバーなどを用いて、利用者に提供するサービスとして、電気通信事業に当たります。

ただし、電気通信事業のすべてについて届出が必要なわけではありません。

1-2 適用除外規定

電気通信事業であっても、届出が不要な場合があります。(電気通信事業法164条1項)

  1. ・専ら一の者のみに電気通信役務を提供する場合
  2. ・同一構内・建物内に設置した電気通信設備により電気通信役務を提供する場合
  3. ・線路のこう長の総延長が5km未満の電気通信設備により電気通信役務を提供する場合
  4. ・他人の通信を媒介しない電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除く。)を電気通信回線設備を設置しないで提供する場合
  5. (電気通信事業参入マニュアル[追補版]p4)

電子掲示板やオープンチャットは、「他人の通信を媒介しない電気通信役務」なので、電気通信回線設備を設置していない場合には、届出は不要です(電気通信事業法164条1項3号)。

一方、電子メールサービスやクローズドチャットは、「他人の通信を媒介する」ため、これらの除外規定は基本的には、該当しないことが多いと思います。

したがって、電子メールサービスやクローズドチャットを、サービスとして提供する場合には、届出をすることが必要ということになります。

1-3 「登録」が必要な電気通信事業

電気通信事業の中には、届出では済まず、登録まで要するものがあります。

その一つの要件が、一定の規模を超えるケーブルなどの伝送路設備や、交換機などの交換設備を設置することです。

これに該当するのは、大規模通信事業者であろうと思われます。

説明はしましたが、基本的には不該当を前提としていいと思います。

2 電気通信事業者の届出手続

では、電気通信事業の届出にはいったい何をすればよいのでしょうか。

提出書類や提出先について説明します。

なお、この届出手続は、提出書類に形式的な不備がない限りは、特に審査を経るものではありません。

2-1 提出書類

必要な書類は以下の6つです。

  1. ①電気通信事業届出書(様式第8)
  2. ②ネットワーク構成図(様式第3)
  3. ③提供する役務に関する書類(様式第4)
  4. ④登記事項証明書
  5. ⑤定款の写し
  6. ⑥受理通知書送付用の返信用封筒(切手を貼付し、送付先住所を記載)

法人ではなく、個人として届け出をする場合、④と⑤に代わって、氏名・住所・生年月日を証する書類(住民票など)を提出することになります。

④の書類と個人の場合の住民票などは、コピーによる提出は認められていませんので注意してください。

それぞれの様式や記入例については、以下のリンク先から参照できます。(関東総合通信局の場合)

届出書類(届出電気通信事業)のダウンロード

2-2 提出先

提出先は、届出をしようとする法人の本店所在地、または個人なら個人の住所によって決まります。

サーバーの設置場所や、実際に営業が行われている場所ではないことに注意が必要です。

北海道総合通信局 北海道
東北総合通信局 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東総合通信局 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県
信越総合通信局 新潟県、長野県
北陸総合通信局 富山県、石川県、福井県
東海総合通信局 岐阜県、静岡県、愛知県、三重県>
近畿総合通信局 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国総合通信局 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国総合通信局 徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州総合通信局 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
沖縄総合通信事務所 沖縄県

届出について手続き費用は郵便等の料金の他にはかかりません。

2-3 マニュアル等

手続マニュアルは以下のリンク先からダウンロードできます。

電気通信事業の手続き

3 電気通信事業者に対する規制

電気通信事業の届出は、サービス開始前にする必要があります。

また、電気通信事業者には、検閲の禁止や、通信の秘密の保護といった規制がかかりますので、
くれぐれもご注意ください。

悪質な場合には刑事罰も控えています。

まとめ

今回は、電気通信事業について届出手続き等をご説明しました。

意外と忘れがちなこの法律ですが、通信の秘密という憲法上の権利(!)までかかわる重要な法律といえます。

この記事を読んだ方で、まだ必要な届出をしていない方は、手続き自体はとても容易ですので、すぐにでも届け出てくださいね。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士飯岡謙太

担当者プロフィール

IT事業者の皆様は、一般的な取引トラブルに限らず、IT事業であるからこその特別の法的問題に直面することがあります。また、一口にEC・プラットフォームサイト運営といっても、インターネットを利用するが故に、実店舗販売とは異なる様々な規制に配慮する必要があります。これらの法的問題について、最善の予防策や、トラブルに対する適切なアドバイスをご提供いたします。


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