ECにおける契約は、いつ成立するのか【メールが着いた時?確認画面が出た時?ー電子契約法による帰結】

契約の成立時期

 ECサイトを運営する中で、よくあるクレームの中に、「他の商品には申込んだけど、この商品は申込んでない。」や「承諾メールが来ていないから、お金は払わない」というものもあると思います。

契約が成立していれば、お客さんがそのようにいってきても、代金が請求できることは当然です(実際に請求するかは各々判断があると思いますが)。

そこで、今回は、ECにおいて、どの時点で契約が成立するのか?について書きたいと思います。

1.法律はどうなっているか。

 まず、法律の規定は、どのようになっているのかを確認しましょう。

1.1 民法からの帰結

 契約は、買い手の「申込み」と売り手の「承諾」の意思(「これを買います」という意思と「これを売ります」という意思)の表示が一致することで、成立します。
民法では、その意思表示は、その通知が相手方に到達したときに効力を有する(民法97条)とされています。この考え方からすると、「売り手」が承諾の通知を出し、それが相手に到着したときに契約は成立することになります。
しかし、対面での契約ではない場合(法律では、「隔地者間の契約」といいます。)には、「申込み」を受けた者(「売り手」)の「承諾」の通知を発した時に契約が成立するとなっています(民法526条1項)。

つまり、買い手のAさんがこれを「買いたい」といった場合に、売り手のBさんが「OK!それでは、これを売ります。」という内容の手紙をAさんに送った場合には、Bさんが手紙をポスト等に入れた時点で、契約が成立するということになるのです。

民法は、隔地者間では、承諾通知が「買い主」に届くことが遅くなるため、早期に契約関係を安定しようということで、「隔地者間の契約」をこのように扱うこととしているのです。

 そうすると、ECももちろん対面の契約ではない(「隔地者間の契約」)ので、民法526条1項により、契約は、EC運営者が申込を受け付けた旨(「承諾」)のメールを送信した時点で、成立することになるようにも思えます。

1.2 電子契約法(正式名称「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)による民法の修正

 しかし、実際にECの場合の承諾通知は、メール等を利用することで、原則として極めて短時間で「売り手」に届きます。

そこで、昨今の電子商取引の拡大に伴って、民法の取引のルールを少し修正するいわゆる電子契約法は、EC等の場合には、「隔地者間の契約」も、対面契約も同一に扱うものとするとしているのです。

(電子承諾通知に関する民法の特例)
第4条 民法第526条第1項及び第527条の規定は、隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については、適用しない。

つまり、上記の通り、民法97条の扱いと同一になり、ECサイト運営者(「売り手」)からの承諾の通知がお客さんに到達したときに契約が成立することとなります。

2.いつ「到達した」といえるのか~具体的なECにおける契約成立時期~

 ここまで、「買い手」に承諾通知が到達したときに契約が成立すると書いてきました。では、何をもって「到達」というのでしょうか。

ここでは詳細は避けますが、「到達した」といえるためには、「買い手」側にとって、直接メールを読む等までは必要ではなく、「売り手」の承諾の意思表示を、「読み取り可能な状態」になればよいと考えられています。

2.1 メールで通知した場合

 メールで通知した場合に、「買い手」がメールを開封することまでは必要なく、メールサーバー中のメールボックスに読み取り可能な状態で記録された時点で、承諾通知が「到達した」といえ、契約が成立することになります。仮に、承諾通知がいったん記録された後に、何らかの事情で焼失した場合であっても、一度読み取り可能な状態になっている以上は、通知は「到達した」といえるので、契約が成立します。

一方で、「「買い手」のメールサーバーが故障していて承諾通知が記録されなかった場合」・「メールが文字化けして解読できない場合」等は、「買い手」がそのメールを読み取り可能とはいえないから、契約は成立しないことに注意が必要です。

 また、申し込みに対する自動返信メール等に、「在庫確認の上、受注可能な場合には改めて正式にメールをお送りします。」等の文章がある場合には、そもそもこれは、「承諾通知」ではないため、このメールをもって契約が成立するわけではありませんので、注意してください。

 サイト運営者からすると、在庫の確保が不確実そう(本来あってはならないのですが。。)な商品の場合には、自動返信メールにこのような文章をいれておくとよいということになります。

もちろん、そうならないようなシステムを構築しておければよいのですが、商品の仕入れ先との関係等から、そのようにしておくことが、後のトラブルを避ける(トラブルになったとしても短い時間で済ませられる。)方法として利用することは、一定の意味があると思われます。

2.2 ウェブ画面に表示させる場合

 申込みをした直後に、ウェブ画面に「ありがとうございました。注文を承りました。」等の文章を表示させているサイト運営者の方も多いと思います。

その場合には、この時点(表示された時点)で、承諾通知が、読み取り可能な状態になり、「到達した」といえるので、契約が成立することになります。

 一方で、通信障害等でモニター画面に表示されない場合には、契約は不成立なのは、メールの場合と同様です。

なお、ウェブ画面に承諾する文章が出たとしても、別途自動返信メール等を送ると思いますが、このメールはこの場合、単なる事実確認の意味をもつに過ぎないものとなります(ただし、お客さんの備忘等のためにメールはおくるべきだと思います。)。

 また、「在庫確認の上、受注可能な場合には改めて正式にメールをお送りします。」といった文章が記載がある場合には、メールの場合と同様、契約は成立しませんので、重ねてご注意ください。

 

 

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

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