ECにおける「なりすまし」への対応方法【本人になりすまして、他人が申込みをした際の法律問題】

なりすまし

 ECにおいては、直接本人の顔等を確認することなく取引がなされるため、商品の申込みを他人を装ってなされる場合があります。今回は、そのようないわゆる「なりすまし」行為があった場合の契約がどのようになるのかについて、書きたいと思います。
LINEの「のっとり」がかなり頻繁にされるようになり、今後「のっとり」をして、「なりすまし」行為に及ぶということも考えられますので、ECサイト運営者、利用者ともにこのあたりについては、しっかり理解しておいた方が良いと思います。


本記事では、なりすまされた者を「本人」の呼ぶことにします。

1 なりすまし行為と民法

 さて、いつも通り、まずビジネスの基本となる民法から見ていきましょう。

1.1 なりすまし行為は、原則無効(本人に契約関係は生じない。)

 契約は、申込者と承諾者の意思表示が一致した場合に成立します(当サイトでは、耳にタコができたというご意見もあると思いますが、大事なところなので繰り返し。。。)。
ですので、当然のことながら、本人が申込みをしなければ、申込者の意思表示がないのですから、なりすましによる申込みは、原則として効力を持ちませんので、契約は成立しません。つまり、サイト運営者からすれば、本人に対して何の請求もできないということです。

1.2 なりすまし行為が、有効となる(本人が契約関係に拘束される)例外的場合

 この「原則として」というのが気になるところなのですが、民法では、本人が何も意思表示をしていない場合にも、例外的に本人が契約に拘束される場合を想定しています。いわゆる表見代理という例外的な制度(民法109条、110条、112条)です。
 

1.2.1 表見代理制度とは!?

 表見代理制度とは、本来「代理」制度の例外的な制度です。
 代理制度とは、誰か(「依頼者」)がある信頼できる人(「代理人」)に、自分の代わりに取引の交渉をしてくれとか、契約を締結してくるように頼むことがあると思います。この代理人が依頼者のために、誰か(「相手方」)と契約を締結すれば、その契約の効力は、この依頼者と相手方に生じますよという制度です。これはよくある話ですよね。
この代理制度を利用するためには、当然、依頼者から代理人に対して、自分の代わりに取引の交渉をしてくれや契約を締結する権限(「代理権」)を意思表示によって与えられている必要があります。
もし、この代理権を与える依頼者から代理人に対する意思表示がなければ、この代理制度の適用がなく、代理人と相手方の間でなされた契約は、依頼者を拘束しません(いわゆる「無権代理」)。
 この場合、民法は、本人がこの代理権のない代理人(「無権代理人」)に対して、何かしらの請求をすることができると規定はしています。
しかし、このような無権代理人は、すぐに逃げてしまったり、見つけたとしても、その商品はもっていなかったり、お金をもっていなかったりするので、あまり意味がないことが多いです。
 そこで、民法は、一定の例外的な条件がそろった場合に、相手方と本人の間に契約関係を認めて、相手方が本人に対して商品の引渡しやお金を請求できる場合を認めているのです。
 具体的に、表見代理の成立には

①無権代理人が代理権をもっているいかのような外観の存在(外観の存在)
②相手方が無権代理人に代理権がないことを知らないし、知らないことがやむを得ないといえること(相手方の善意無過失)
③本人に、①の外観ができてしまったことに対して、一定の責任があるといえること(本人の帰責事由)

が必要です。
例をだすと

①依頼者が相手方に対して、実際には契約を締結することまでは任せていなかったにもかかわらず、「あいつ(無権代理人)にすべて任せてるんだよね!」的な発言をしていたこと(外観の存在)
②相手方が、無権代理人が契約締結代理権限をもっていると信じていたし、①の発言があった状況等から信じることが普通であったこと
③依頼者が相手方に①のように発言したのは、本人の責任であるあこと(本人の帰責事由)

なんて場合です。
 

1.2.2 なりすましはそもそも「代理」ではないけど!?(表見代理規定の類推適用)

 表見代理制度についてみてきましたが、「なりすまし」は、代理権があるフリをするのではなく、本人であるフリをするのですから、本来代理を基礎に置く表見代理制度は適用されません。
 しかし、これをなりすましの場合にも適用しようという裁判例が結構あるんです(法律的にいうとその条文の本来の適用場面ではないので、「類推適用」と呼んだりします。)。
つまりは、本人への「なりすまし」の場合にも、上記③つの要件(外観の存在、善意無過失、帰責事由)が備わる場合には、表見代理の規定を類推適用しようというのです。、
その場合には、

① 本人よる契約であるような外観
② 相手方が本人によるものと信じることについて、善意・無過失であること
③ 本人に本人による契約であるという外観が作り出させたことに責任があること

が要件となります。

2 なりすまし行為とEC取引へあてはめる

 「1」では、長々と民法からみるとどうなるかを見てきました。それでは、なりすましをEC取引にあてはめてみていきましょう。

2.1 1回限りの取引の場合

 例えば、アカウント等事前登録なしに、何かの商品を1回限りで買う場合、なんらお互いを拘束する事前約束等はないので、EC取引にも「1」で述べた民法がそのまま適用されます。
ですので、上記3要件を充たさない限り、原則通り契約は、本人(お客さん)を拘束しません。
 そして、1回の取引では、例え本人名義での申込みであって(①)も、本人も悪いといえる事情がある場合はまれだと思います(③不充足)ので、表見代理の類推適用はされず、原則通りの場合がほとんどといえるでしょう。
よって、相手方であるEC運営者は、本人にお金を請求する等は、まずできないでしょう。

2.2 継続的な取引がある場合(アカウント登録(利用規約への同意等)を事前にしている場合)

 それでは、アカウント登録をした上で継続的に取引することを想定している場合はどうでしょうか。この場合、利用規約に、本人確認方法(IDとパスワード等によるログイン)やその方法さえ守れば、仮に「なりすまし」であったとしても、本人に契約の効力が及ぶ(本人にお金を請求できる。)というようなことが記載されていることがよくあります。
なお、利用規約にこのような規定がなければ、3要件を充たすか否かで結論が異なります。
 

2.2.1 本人が「事業者」である場合

 本人(お客さん)が会社や個人事業主等の「事業者」として、上記利用規約に同意していた場合には、対等な当事者間における民法の大原則である「契約自由の原則」がそのままあてはまりますので、その利用規約の内容に拘束されます。
ですので、たとえ「なりすまし」による申込みであったとしても、「なりすまし」をした者が、本人のIDとパスワードでログインをして、申込がなされれば、契約が本人(お客さん)を拘束することになります。
この場合には、ECサイト運営者は、本人にお金を請求することができます。
 

2.2.2 本人が「消費者」である場合

 一方、本人(お客さん)が個人の「消費者」の場合には、消費者を保護する消費者契約法の適用があります。
この法律は、消費者保護のために民法の原則を修正している部分があり、具体的事案との関係で消費者の利益が一方的に害される合意は無効になる旨(消費者契約法10条)定めています。
ですので、上記のような利用規約の規定は、本人に効果が及ぶ要件がかなり厳格なものでなければ、同意をとっていたとしても無効となります。少なくともIDとパスワードでログインして購入した等の要件では。無効でしょう。
そうすると、結局、「1」でのべた3要件を充たす場合のみ本人に契約の効力が生じ、そうでなけば原則通り本人に契約の効力は及ばないといえるでしょう。

 この場合、①(外観の存在)は認められるでしょう。②については、本人の確認方法が厳格であればあるほど相手方(EC運営者)の無過失が認められやすくなります。そして、③については、本人がIDやパスワード等本人確認のためものをどのように管理していたが重要となります。つまり、誰でも閲覧できる共有PCに入れていたや紙に書いて机にはっていた等で、それにより「なりすまし」が生じたという場合には、③の帰責事由は認められやすいでしょう。

 
 余談ですが、LINEがPCからログインするとモバイルに確認メッセが行くようになったこと等は、今後③本人の帰責事由を高めるものとして評価されるでしょう。つまり、確認メッセを送ったにもかかわらず、放置し、「なりすまし」が申込みをしてしまったら、本人がちゃんと対処しなかったからと評価される可能性が高いからです。

3 EC運営者の「なりすまし」への具体的対応方法

3.1 BtoBの場合

 利用規約にアカウント登録の利用規約に、本人確認方法(IDとパスワード等によるログイン)やその方法さえ守れば、仮に「なりすまし」であったとしても、本人に契約の効力が及ぶ(本人にお金を請求できる。)という記載を入れておき同意をとっておく※実際に請求するかどうかは、各々状況から判断する

3.2 BtoCの場合

 UIを下げ過ぎないレベルで、できる限り「なりすまし」を防止する為に厳格な本人確認をするように心がける

3.3 まとめ

 以上、長々と書いてきましたが、「なりすまし」なんてもちろん事前に防げるにはこしたことありません。
EC運営者としては、定期的なPWの変更を呼びかけたり、過去と比べてあまりに頻繁な申込みが、あるお客さんからある場合には、問合わせ(被害を抑えるため)をしてみる等の措置を講じることが重要でしょう。
ここまで、読んでいただいた方には、おわかりと思いますが、結局がこのようなお客さんを思った行動が、上記3要件つまり法律的にも良いことになるのです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

ピクト法律事務所

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