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EC取引(インターネット取引)における返品について【サイト運営者はどのような場合に返品に応じなければならないのか】
- 公開日:2014/9/11 最終更新日:2016/07/18
- EC(IT)取引上の問題, 広告の問題
- クーリングオフ, 特定商取引法, 返品
以前、特定商取引法による表記について記事を書きましたが、その中に申込の撤回等に関する事項(返品に関する事項)という項目を挙げました。今回は、このEC取引(インターネット取引)における返品を法律はどのように考えているのかについて、少し深堀りして書きたいと思います。
注意していただきたいのは、この記事の内容は、例えば取引の対象となった商品やサービスについて問題や欠陥(法律的には「瑕疵」と呼んだりします。)がある等の理由やお客さんがそもそも勘違いして購入してしまった場合(勘違いについては錯誤の記事を参照)とは異なり、商品やサービス内容に問題はないし、勘違いしたわけではないのだけれども、お客さんのやっぱり返品したいとお客さんがいいだした場面を想定しています。この辺りを、誤解しないようにしていただければと思います。
目次
今回も長文になりますので、法律の仕組みなんて興味ないという方は、「3 まとめ(ECサイト運営者が取るべき具体的措置)」からご覧ください。
1 クーリング・オフ制度は適用がある!?
「返品」と聞くと、「クーリング・オフ」という言葉を思い出される人も多いのではないでしょうか。小学校の授業で言葉を聞いた覚えが私にもありますので。クーリングオフとは、一定期間内であれば無条件で、一方的に契約を解除できる制度です。なので、もちろんその期間内であれば「返品」できることになります。
それでは、EC取引(インターネット取引)にクーリングオフ制度は適用されるのでしょうか。
1.1 民法の原則
まず、当サイトではおなじみの民法から見ていきましょう。民法からすると、契約は当事者の申込みと承諾によって成立し、それぞれを拘束します。なので、一方的にこの契約内容を変更することはできません。
ですので、民法からするとお客さんから一方的な「返品」をすることは許されません。
1.2 特定商取引法
ただし、民法もある特殊な取引形態等であれば、他の法律によって修正されています。例えば当サイトでも頻繁に顔をだす「特定商取引法」等です。クーリングオフはずばり、この「特定商取引法」に定められています。
そして、特定商取引法は、7つの類型的に消費者トラブルが起こりやすい取引に適用されるのです(詳細は、こちらの記事を)。
1.3 EC取引(インターネット取引)の場合
こちらの記事でも書きました通り、EC(インターネット)取引は、特定商取引法の「通信販売」に該当しますので、特定商取引法の適用を受けます。
しかし、他の6つの類型とは異なり、「通信販売」には、クーリングオフを認める規定はないんです。
ですので、EC(インターネット)取引にクーリングオフ制度は適用されません。
2 「通信販売」の場合に、お客さんに認められる「法定返品権」!?
EC(インターネット)取引に、クーリングオフ制度が適用されないとすると、原則である民法に単純に戻るとも思えますが、「通信販売」について、下記のクーリングオフ制度と似て非なる特別な制度が用意されていますので注意してください。
2.1 特定商取引法15条の2
(通信販売における契約の解除等)
第15条の2 通信販売をする場合の商品又は指定権利の販売条件について広告をした販売業者が当該商品若しくは当該指定権利の売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は売買契約を締結した場合におけるその購入者(次項において単に「購入者」という。)は、その売買契約に係る商品の引渡し又は指定権利の移転を受けた日から起算して8日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(当該売買契約が電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 (平成13年法律第95号)第2条第1項 に規定する電子消費者契約に該当する場合その他主務省令で定める場合にあつては、当該広告に表示し、かつ、広告に表示する方法以外の方法であつて主務省令で定める方法により表示していた場合)には、この限りでない。
2 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は指定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする。
と条文でみるとややこしいで、この条文の一番冒頭の文章から、8日間は申込みを撤回できるやん!!」、「クーリングオフと一緒じゃない!?」という質問を受けることがよくあります。
しかし、この制度は、法律的にはいわゆる「法定返品権」と呼ばれるもので、クーリング・オフとは大きく異なります。
ポイントは、一番冒頭の文章(特定商取引法15条の2第1項本文)の次の「ただし」で始まる文章(特定商取引法45条の1第2項但書)です。
2.2 クーリング・オフ制度との違い
それでは、上記の条文の「ただし」の文章(特定商取引法45条の1第2項但書)を見て下さい。文章のなかを分かり易くはしょってみると、「ただし、・・・特約を当該広告に表示していた場合・・・には、この限りでない。」と書かれています。
もうお分かりですね。クーリング・オフ制度では、特約があろうがなかろうが、表示されてようがされていまいが、一定期間内であれば、無条件で、お客さんから一方的に「返品」することができます。しかし、EC取引(インターネット取引)を含む「通信販売」では、特約が広告に表示されてれば、お客さんからの一方的な「返品」は認められないんです。
ここが、「法定返品権」制度と「クーリング・オフ」制度の大きな違いです。
2.3 「法定返品権」を行使できなくなる特約表示
上で見たように特約が広告に表示されれば、お客さんの一方的な「返品」は認められません。ただし、この「特約」って何!?ということがあると思うのですが、この「特約」の内容や表示の方法が法律で定められており、これを守らないと「返品」を「法定返品権」がお客さんに認められ、「返品」に応じなければならないので注意してください。
2.3.1 表示内容
② 返品を認める場合にはそれが可能である期間等の条件
③ 返品に必要な郵送料の負担の有無
を表示する必要があります。
2.3.2 表示方法
法律は、その特約内容を一定の表示方法によることを要求しています。これらの要求を充たしていないと、「特約」は無効であり、「法定返品権」が認められることになってしまいます。
特定商取引法は、その特約内容を「顧客にとつて見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとつて容易に認識することができるよう表示すること」(特定商取引法主務省令第9条3号)を要求しています。
さらに、EC取引(インターネット取引)の場合には、一般の「通信販売」と異なり、電子契約法(正式名称:電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)という法律が適用になり、最終申込画面における特約の表示をすることまで義務つけられます(特定商取引法15条の2第1項但書、電子契約法2条第1項、特定商取引法主務省令16条の2)。
具体的には、商品等を販売しているページ自体に常に表示(最終申込画面も含む)に表示させる方法であればなんの問題もありません。しかし、実際には、常に同一画面上に表示するとなると商品の宣伝やUIをかなり害することにもなりますので、リンクを他のページに貼るという方法をとっている場合が多いです。
リンクを場合には、①申込みボタン近く(申込ボタンを押すものであれば目にするであろう場所)に、②十分な大きさの文字(PCでいうと12pt以上)で、③「返品等についてこちら」という表現(返品についてお客さんが意識するもので、他の事項に埋没しないように記載する。)のリンクを貼ると良いでしょう。また、④最終申込画面までリンクを貼っておかなければならない点は要注意です。
なお、「返品不可」とする場合には、場所も取らないので、商品画面と同一のページに掲載する方法も良いと思います。ただし、「返品不可」という文字は、お客さんに不安感を与える場合もありますので、一定の条件(期間等)の下、返品を認めるのであれば、条件を掲載しなくてはならないので、やはりリンクを貼る方が良いでしょう。
ちょっとテクニック論になってしまうのですが、最近のECで良くあるのは、開封前であれば返品を認めるというものです。これだけでもお客さんにとっては一切ダメといわれるよりも安心感がかなり増します。
3 まとめ(ECサイト運営者が取るべき具体的措置)
長々とEC取引(インターネット取引)における「返品」について書いてきましたが、EC運営者が取るべき措置をまとめると、
(詳細は、「2.3.1」参照)
② 表示方法は、最終画面も含めて、申込ボタンの近くに見やすいように表示する
(詳細は、「2.3.2」参照)
ということです。これを適切にしないと、8日以内であれば自由に返品できることになりますので注意してください。
また、一定の場合に、返品を認める方がお客さんの安心感に繋がり、購買意欲を強めるという側面もありますので、一切返品不可とすることが必ずしも良いことではありませんので注意してくださいね。
最後に、繰り返しになりますが、この記事は、取引の対象となった商品やサービスについて問題や欠陥(瑕疵)がある等の理由やお客さんがそもそも勘違いして購入してしまった場合(勘違いにについては錯誤の記事を参照)ではなく、お客さんの一方的な「返品」を認めるが否かということに関する記事なの注意して下さい。商品に欠陥等がある場合には他の制度によって契約の解除等がなされる場合がありますので、その辺りについてはまた別の記事で書きたいと思います。