誤操作・誤入力でネットで商品を購入した場合【間違えて申込ボタンを押してしまった!個数を間違えてしまった!】

ミスの申込

 さて、前回はEC取引における契約の成立時期は、普通の取引と違うよ!という内容の記事を書きましたが、今回もEC取引と通常の取引で異なる点について、書きたいと思います。タイトルにある通り、ECだとクリックをするだけで、商品を購入できるので、よく「間違えてボタン押しちゃった!」とか、「個数の入力間違えた!」とかいう話がでてきます(法律界隈で仕事をしている人でいうところのいわゆる「消費者の操作ミスによる錯誤)。

そのような場合、法律的にはどのように扱われるのでしょうか。この問題は、ECサイト運営者にとって、サイト設計や購入フローを作成する際に、必ず考慮すべきところだと思いますので、一度、自分のサイトをイメージしつつ読んでいただきたいです。

1.法律はどうなっている?

 「キャンセルボタンと思って押したら、申込ボタンだった。」(意図しない申込み)、「1個の予定が、11個と入力して申込ボタンを押してしまった。」(意図と異なる申込み)場合、法律的にどのように扱われるのでしょうか。

1.1 民法からの帰結

 さて、いつも通り、ビジネスの基本である民法から見てみましょう。

 

1.1.1 民法95条本文(錯誤無効)

上記のような事例は、法律的にはいわゆる「錯誤無効」(民法95条)という問題です。

錯誤とは、自分が心の中で思っていること(内心の意思)とそれに伴う相手方の表示(意思の表示)の間に違いが生じてしまうことをいいます。
上記の事例以外ですと、「Aという商品を買おうと思っていた(内心の意思)のに、間違えてBを買うと言ってしまった(意思の表示)場合」等も挙げられますね。

(錯誤)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

この規定の本文(一文目)により、上記の事例では申込みは無効であり、もちろん契約(取引)も無効ということになりそうです。

 

1.1.2 民法95条但書

 しかし、さっしの良い方は、気がついたかもしれませんが、民法95条には、但書(2文目)があります。
この規定は、錯誤があった者に「重大な過失」がある場合には、無効っていえないよといっています。
EC取引の場合によくある、間違えてボタンを押してしまったとか、入力個数を間違えた等の場合、単純に購入者のミスなんだから、契約が無効とはいえないんじゃないかな!?という疑問がでてきます。

1.2 電子契約法による民法の修正とその帰結

 民法によると上記事例の場合は、契約は有効であり、購入者は、代金を支払わなくてはならないということになりそうです。

 

1.2.1 電子契約法3条本文

 しかし、BtoBならいざしらず、一般消費者を相手にしたBtoCの場合、それではあまりにもトラブルが多くなり過ぎるということを考慮(現実には、詐欺等に利用されるとかの問題も考慮して)して、いわゆる電子契約法(正式名称「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」))3条がこんな規定を置いています。

(電子消費者契約に関する民法 の特例)
第3条  民法第95条 ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

そう本文冒頭から分かるように、「電子消費者契約」の場合には、原則として民法95条但書の適用はないとしているのです。
EC取引の場合は、ここでいう「電子…契約」に該当しますが、注意が必要なのは「消費者」とされている点です。つまり、上記でも述べた理由からBtoCに限定して、このような処理になることに注意してください。つまり、会社での仕事で、発注をしてもこの電子契約法3条は適用されません。

 

1.2.2 電子契約法3条但書

 とはいうものの、さっしが良い方は、またまた気がついたと思いますが、民法95条同様、電子契約法3条にも但書(2文目)があります。

そこには、事業者(ECサイト運営者)が、①「確認を求める措置」を講じた場合と消費者が②「「確認を求める措置」が不要という表明」をした場合には、電子契約法3条本文は適用しないとしています。つまり、民法95条但書により契約は、無効とならない可能性が高い(サイト運営者は、消費者(購入者)に代金を請求できる。)ということです。

2 ECサイト運営者がとるべき措置

 それでは、以上を前提に、ECサイト運営者は、どのようにサイト構築をすべきでしょうか。

ECサイト運営者としては、消費者(購入者)の誤りによって取引をないものと扱われたくはないでしょうから、民法95但書を適用したいということになりますので、上記の電子契約法3条但書でいうところの①「確認を求める措置」を講じておく必要があるでしょう。なお、②については、消費者からの「意思の表明」は、消費者に依存する問題なので、②よりも①を講じておくことがベターです。

具体的にどのような措置を講じるべきかというと、実は、①については通常皆さんも目にしているんです。

申込ボタンを押した後、申込内容の「確認画面」ってでますよね!?この内容でよろしければ「進む」を押してください。みたいな形で。。。

実はこれこそが、①「確認を求める措置」なのです。確認画面の下に訂正ボタンを設置しておけば、①「確認を求める措置」として十分でしょう。

3 まとめ

 以上、今回は誤操作等による場合に取引関係について見てきました。「電子契約法3条但書の「確認を求める措置」をとっておきましょう。」という話だったのですが、別に相手が間違えた商品の代金まで請求しようとは思わないんだけど。。。というECサイト運営者の方もいらっしゃると思います(むしろ、「多い」と思う。。。)。

かくゆう私も、このような場合には、「じゃあ、キャンセルしときますね!?」で済ませることも多いです(案件の量が多くなるとこの措置は難しくなってきますが)。

そうなのですが、結局この①「確認を求める措置」って、結局、お客様に対して親切ですよね!?

また、一度システムを設計するだけで、お客さんのミスが減り、オペレーションのコストも下がります。

なので、是非導入して下さいね。

 

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

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