IT・EC事業者も押さえておくべき平成30年著作権法改正の内容とは

 近年のデジタル通信技術は目覚ましいスピードで発達しています。そのため、既存の著作権法では、時代のニーズに応えられていないところがありました。
 これを受け、デジタル社会での著作物の利用を促進することを目的とする著作権法の改正案が、平成30年5月に国会で成立し、公布されました。
 今回は、今年の著作権法改正の中身について解説します。

1 改正の趣旨・目的

 近年では、AI、ICT、ビッグデータ、IoTなど、様々なデジタル技術が日々新たに生まれています。このようなデジタル・ネットワーク技術の発達に伴って、著作物を利用する方法も新たに生まれており、その度に「この著作物の利用方法は、既存の著作権法上問題はないのか?」と議論がされています。
 そこで、新たな著作物の利用方法のニーズに対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある利用行為を見直し、一定の範囲では著作権者の許諾を不要とすることを趣旨として、著作権法の改正がなされました。

2 改正の概要はどうなっているのか?

 平成30年の著作権法改正の概要は、次の4つの柱からなります。

    平成30年改正の概要

  1. ①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
  2. ②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
  3. ③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
  4. ④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

 以下で、それぞれについて解説します。

3 デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備

 まず注目すべきは、後述の新30条の4です。今回の改正の目玉と言うべき、ある程度広い範囲での自由利用を認める規定となりました。

3-1 趣旨・目的

 現行の著作権法では、前述のとおり、近年のデジタル関連事業のうちどこまでが権利者の許諾を得ずとも適法に行えるのか不明確な場面が多くありました。
 そこで、今回の法改正にあたり、ビッグデータについては、市場に流通する著作物の利用に悪影響を及ぼさないのであれば、権利者の許諾を不要とするべきと考えられました。
 また、イノベーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定が設けられることになりました。

3-2 具体的な条文は?

 この点に関し、次の3つの条文が新設されましたが、条文自体は長く難解な言い回しになっているので、以下では概要を記載しています。

 新30条の4は、1号(著作物の録音、録画等の利用に関する技術の開発や実用化のための試験)、2号(ビッグデータ等による情報解析)、3号(電子計算機(コンピュータ)で情報処理を行う過程での利用(プログラムの実行は除く))の場合に、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用は、著作権者の利益を不当に害しない限度で、自由に著作物を利用できるとされました。
 電子計算機に関する利用については、新47条の4と新47条の5も、自由に利用できる範囲をそれぞれ細かく定めています。

 これらの新しい条文によって、例えば、大量の論文データを収集し、ある論文が他の論文を盗用したものでないかをチェックし、盗用している場合にはその論文箇所を表示する検索サービスなど、ビッグデータを用いた情報解析サービスが適法になるケースが多くなると考えられています。
 そのほか、新しい30条の4第3号や47条の4、47条の5等によって、リバースエンジニアリングが適法になることも増えそうです(ただし他の法令や契約による制限は受けたままです。)。

 ただし、新30条の4の肝である「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」がどのような意味なのかについては、正直に言ってわかりにくい文言となっています。国会での議論では、「著作物等の視聴等を通じて視聴者等の知的又は精神的な欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為」が本条の対象となると説明されているようです。
 この論点については、今後の議論で明らかにされていくものと思われます。

4 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備

 次に、学校教育でのデジタル機器の利用に関して、著作権法上の問題をクリアにするための規定が入りました。

4-1 趣旨・目的

 学校の授業や予習・復習のため、生徒に対してiPadなどの授業用端末が配布され、生徒が自宅で宿題をダウンロードして問題を解き、インターネットで提出する、のようなことも、新しい条文によってある程度は問題なく行うことができるようになります(新35条)。

4-2 注意点は?

 ただし、新しい35条によって適法に授業用端末にダウンロードできるようになるのは、元の授業があるケースに限られます。そのため、すべてをインターネット上で完結させるMOOCのようなサービスは、今回の対象には含まれないと言われています。
 授業配信サービスと著作権法の問題点については、インターネット授業配信サービスの落とし穴!?を参照ください。

5 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備

 国際的な条約を見据え、身体の不自由な方も書籍を楽しめるようにするための改正も盛り込まれました。

5-1 趣旨・目的

 現行の著作権法では、視覚障害の方が書籍を楽しめるように、書籍を朗読した録音書籍が自由に複製等をすることはできていました。今回の改正では、その範囲を拡張して、視覚障害に限らず何らかの障害により書籍を目で見て読むことが困難な方についても、録音書籍の複製等を自由に行うことができるようになります(新37条)。

5-2 注意点は?

 今回の法改正によって許容される利用態様は、文字を音声にすることなどの方法で複製することと、公衆送信することです。そのため、文字を点字にするなどの翻案・翻訳は、今回の対象には含まれませんので、権利者の許諾を得なければなりません。

6 アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

 アーカイブとは、著作物の一覧のようなもので、著作物の内容、権利者、公表年等を記録し、検索できるようにしておくデータベースのことを指します。

6-1 趣旨・目的

 著作物を利用するために権利者の許諾を得なければならないとはいっても、自分で権利者を探し出すことは容易ではありません。そのため、アーカイブを整備することで、権利者へのアクセスを容易にし、著作物の利活用を促進することが、この新しい規定の狙いです(新31条、47条、67条等)。
 この新しい条文によって、アーカイブ検索のために検索機器に著作物等を表示することが適法となります。

6-2 著作者が不明な場合には

 いくらアーカイブが整備されても、著作者が不明な場合には、著作者裁定制度を利用しないといけない点は、従来のままです。裁定制度は、補償金の供託が必要であること、政令で定める方法で一度は自分で著作者を探す努力をしないといけない点で、使い勝手が良い制度とはいえません。詳細は、著作権者が不明な場合は著作物は使えないのか!?を参照ください。

 著作者不明の著作物の利用をより促進するためには、私見ですが、アメリカのフェアユースのように自由利用できる範囲を今回の改正法より広く認めるか、裁定制度のハードルを下げる必要があると思われます。著作者の権利にも配慮しなければならず、両者のバランスを取る必要があるのはもちろんですが、もう少し利用しやすい制度を整備すべきであると感じています。

7 まとめ

 今回は、平成30年の国会で成立した改正著作権法について、概要を解説しました。
 特に、新30条の4がデジタル関連事業のために自由な利活用を促進することを狙いとした規定であることから、IT・EC事業者の方に与える影響は大きいと考えられます。もっとも、国会での審議や関連省庁の解説では、限られた事業しか念頭に置かれておらず、それ以外の事業にも問題なく広く適用される条文であるかは、今後の議論によってひとつずつ解決していくことになりそうです。

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