著作者人格権とは

 著作物を創作した者は著作者となり、著作権と著作者人格権の2種類の権利を有することになりますが、著作者人格権については馴染みのない方もいらっしゃると思います。今回は、著作権法で定められた著作者人格権について解説していきます。

1 著作者人格権とは?

 著作物を創作した者は、著作者となり、著作権と著作者人格権の2種類の権利を有することになります。
 著作権はライセンス契約で譲渡の対象となり、財産的価値を有する(=取引の対象となる)財産権ですが、著作者人格権は、著作者がその自らの作品に対して持つこだわりなどの人格的な部分を保護する権利です。そのため、著作者人格権は他人に譲渡することができないとされています(著作権法59条)。

 このように、財産権である著作権と人格権である著作者人格権は、異なる性質を有しているのです。

1-1 公表権

 著作権法は、以下のとおり、著作者は公表権を有していると規定しています。

著作権法第18条 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
2 (以下略)

 このため、著作者は、自らの作品をいつ公表するかを決める権利を有しています。自分が想定しないタイミングで公表されることは、著作者のこだわりが現れるところだと考えられているのです。

 なお、公表権で保護される著作物はオリジナルのものに限られません。例えば、Aさんが甲という著作物を作成し、未公表の間にBさんが甲を改変して乙を作成した場合、Aさんは、乙の公表タイミングを決める権利も有していることになるのです(著作権法18条1項後段)。

 「公表」とは、発行、上演、演奏、上映、公衆送信、口述、展示されることをいいます(著作権法4条1項参照)。公表されたか否かのメルクマールは、公衆、すなわち不特定人または多数人に著作物が行き渡ったかどうかで判断されます(「公衆」の意義について、著作権法2条5項)。
 過去には、世界的に有名だった日本人サッカー選手が原告となり、中学の卒業文集で300部以上配布された作文を雑誌で公表した出版社を被告として雑誌の差止請求をした事案があります。その事案では、原告の作文が既に公表された著作物かどうかが争われました(東京地裁平成12年2月29日判決)。裁判所は、300部以上という部数から、既に多数の者に公表されていると判断し、原告の公表権侵害の主張を認めませんでした。

 既に公表されている著作物かについてや、公表行為に当たるかについては、著作物が配られた数、それを目にした人の数のほかにも、著作物が広まりやすい性質を有しているかどうかなども判断要素に入ってきます。

1-2 氏名表示権

 氏名表示権については、著作権法は次のとおりに定めています。

著作権法第19条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
2 著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。
3 著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

 このように、著作者は著作物に著作者名を表示するか、それともしないか、表示するとすればどのような著作名の表示にするかを決めることができる権利を有しています。氏名の表示についても著作者はこだわりを持っているし、不適当な方法で氏名表示がされた場合には社会的評価を損なうなど人格的利益を害するからです。

 もっとも、従前の表示や慣行に従って表示する場合には、氏名表示権の侵害にはならないとされています(著作権法19条2項、3項)。このような場合には、通常、著作者のこだわりを害したり、社会的評価を損なうなどの事態にはなりにくいと考えられるからです。

 ただし、何が従前の表示なのか、何が慣行なのかは、非常に不明確です。そのため、他人の著作物を利用する際には、氏名を表示するかどうか、どのように表示するかをライセンス契約の中で盛り込んでおいたり別途合意書を巻いたりするのが安全です。

1-3 同一性保持権

 同一性保持権は、著作者が自らの著作物について持っている「改変されたくない」というこだわりを保護するものです。

著作権法第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 (以下略)

 同一性保持権は、著作者が「意に反して」改変されたくないことを保護する権利ですので、客観的には著作物の改良行為であっても、同一性保持権侵害になることがあります。
 過去の裁判例では、大学生が執筆した論文に対して送り仮名の変更や読点の削除をした事案で、同一性保持権侵害が認められています。

 ただし、上記のように「意に反して」改変する行為がすべて同一性保持権侵害であるとすると著作者人格権侵害の成立範囲が非常に広くなってしまい、著作物の利用の大きな抑止力になります。そのため、一定の類型については、同一性保持権侵害にはならないと著作権法で定められています。
 IT関連でも、プログラムを他のOSで利用できるように改変する行為や、より効果を発揮するように改変する行為は、同一性保持権の侵害にはならないとされています(著作権法20条2項3号)。
 その他、改変しなければ著作物を利用できない場合などには、「やむを得ない改変」であるとして、同一性保持権侵害にはならないとも定められています(同項4号)。もっとも、この条文がどこまでの改変を許しているのかについては不明確であるため、裁判で争われる事例も近年増えてきています。

 著作物を改変されない権利には、同一性保持権のほかにも翻案権(著作権法27条)があります。ですが、翻案権は財産権ですので、人格権である同一性保持権とは別の権利です。したがって、ライセンス契約で翻案を許諾されていたとしても、同一性保持権についても契約書で改めて合意しておかなければなりません。
 一般的には、「甲(ライセンサー)は乙(ライセンシー)に対して著作者人格権を行使しないものとする。」などの条項を入れることが多いです。

1-4 名誉または声望の保護

 著作者人格権と言われる権利は上記の3つですが、そのほかにも、著作権法は著作者の名誉または声望を保護しており、これを害する方法で著作物を利用する行為は著作者人格権を侵害する行為であると「みなす」と規定されています。

著作権法第113条
6 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

 著作者の創作意図を外れた利用をされると、芸術的価値を大きく損なったり、創作意図を誤解されるなどの事態になるおそれがあります。
 このような事態になると著作者の人格的利益が損なわれるので、名誉または声望を害する方法での著作物の利用は著作者人格権の侵害とみなされているのです。

2 著作者が死亡すると著作者人格権はどうなるか

 前述のとおり、著作者人格権は、個人のこだわりと強く結びついており、譲渡することができない権利です。そのため、著作者が死亡した後、著作者人格権は相続しないと考えられています(民法896条ただし書)。なお、財産権である著作権は相続の対象となります。

 ですが、著作者の死後においても、著作者人格権の侵害は禁止されており、著作者の遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)は侵害者に対して差止請求ができるとされています。

著作権法第60条 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。
第116条 著作者又は実演家の死後においては、その遺族(死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいう。以下この条において同じ。)は、当該著作者又は実演家について第六十条又は第百一条の三の規定に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し第百十二条の請求を、故意又は過失により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為又は第六十条若しくは第百一条の三の規定に違反する行為をした者に対し前条の請求をすることができる。
2 (以下略)

 遺言で請求権者を遺族以外の者にすることも可能です(著作権法116条3項)。過去には、建築家の設計した建物の改変行為(同一性保持権侵害行為)が問題となった事案で、原告の財団が建築家から著作権法116条3項の指定を受けていたと主張したケースがあります(結論としては立証ができていないとして裁判は却下となりました。)。

3 まとめ

 今回は、著作者のこだわりを保護する権利である著作者人格権について解説しました。
権利の種類は3つ(名誉・声望を含めると4つ)しかありませんが、実務でも問題になりやすい権利ですので、正確な理解が求められます。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士萩谷真樹

担当者プロフィール

企業法務の中でも、特に知的財産権分野を得意としている。同法人のIT・EC事業に特化している弁護士とともに、知的財産権分野という専門性の高い領域で、お客様へのサービス提供を行っている。

ピクト法律事務所

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