コスプレ衣装の製作・販売の著作権法上の問題点

 最近、コスプレ衣装の作成を受注して販売するサービスが流行っています。ですが、コスプレ衣装を販売することが著作権侵害になる可能性があります。
 今回は、どのような場合に著作権侵害が生じるか、注意するべき点は何かについて解説いたします。

1 コスプレ衣装の製作・販売

 まず最初に、コスプレ衣装を製作することの著作権の問題を解説します。

1―1 衣装製作・販売業者による著作権侵害の可能性

 例えば、マンガのキャラクターをモチーフにしてコスプレ衣装を製作するケースを想定します。
 当該マンガのキャラクターのイラストは、作者の個性が発揮された著作物であるといえますので、そのイラストを著作権者に無断で複製・翻案することは、著作権者の有する複製権・翻案権を侵害する行為に該当します。

 では、マンガのキャラクターをモチーフにして、現実世界で衣装を製作することは、著作物の複製や翻案になるのでしょうか。

 複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足るものを再製することです。まったく同一なものを再製しなければならないわけではなく、実質的に同一であるといえるものを作成することも、複製に該当します。
 また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいいます。要するに、他の著作物に新たな創作性を加えて別の著作物を作成することが翻案となります。

 わかりやすく言えば、コスプレ衣装を目にした人が、元となったマンガのイラストを想起できる場合、つまり、元のイラストで描かれている特徴的なデザインを衣装で再現している場合には、複製や翻案に該当するのです。

 なお、複製と翻案のどちらに該当するのか、は難しい問題です。
 元になったマンガの二次元のイラストを三次元の衣装にすることは、立体的要素という新たな創作性を加えているため翻案に該当すると考えることができます。一方で、立体的要素を加えることは別に新たな創作性を加えていないと考えるのであれば、翻案ではなく複製に該当することになります。
 ここはまだ議論があまりされていないところですので、複製なのか翻案なのかを厳密に区別することは難しいです。元のマンガのイラストがどのようなものかにもよると思われますが、立体的要素の加味をもって複製と翻案の区別とする考え方も成り立ちうるところでしょう(この点はあくまで筆者の私見です。)。
 もちろん、衣装を製作するときに、元のイラストにはないデザインを追加すれば、立体的要素の加味の意味合いを深く検討するまでもなく新たな創作性を加えているといえますので、翻案に該当することになります。

 以上に対し、元のイラストが創作的なデザインではない場合には、それをモチーフにしてコスプレ衣装を製作しても、その衣装は元のイラストの著作権を侵害するものとはなりません。あくまで、元のイラストに著作権がある場合にだけ、コスプレ衣装の著作権の問題が生じます。

1-2 私的複製の可能性

 コスプレ衣装の製作が複製権を侵害する行為である場合、次に、私的使用のための複製に該当するかどうかが問題となります。

著作権法第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
一 (以下略)

 著作権法30条1項の私的使用のための複製は、あくまで私的に使用する者自身が複製することが前提とされている規定です。そのため、業者が顧客からコスプレ衣装の製作・販売を受注する場合には、著作権法30条1項は適用されない可能性が高いです。
 もっとも、同条の規定の趣旨は、①個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があること、②私的使用目的のような軽微な利用にとどまれば、たとえ放任しても著作権者への経済的打撃が少ないことにあります。

 そのため、反復・継続して、不特定の多数人から製作・販売を受注するのではなく、単発で製作を依頼された場合には、私的使用のための複製として、複製権侵害にならない可能性があります。
 これに対して、不特定多数人から反復・継続して衣装の製作・販売をする業者は、私的使用のための複製に該当しない可能性が高いです。

2 コスプレ衣装の販売

 コスプレ衣装の製作を受注と販売を請け負う業者のほかにも、工場で衣装を大量生産して販売する業者も増えてきています。

 業者が製作した衣装が元のイラストを複製・翻案した物である場合には、業者が衣装を販売することは譲渡権を侵害する行為に該当する可能性があります。(著作権法26条の2第1項)。なお、製作・販売の両方の受注の場合には、譲渡する相手方は発注した特定の顧客だけであって「公衆」への提供には該当しませんが、その顧客からさらに再販される可能性があったりするときには、譲渡権の侵害行為になる可能性があります。
 自炊代行業者と似たような著作権法上の問題点があると考えてもらえると多少わかりやすいかと思います。

 なお、コスプレ衣装の受注生産の場合には、衣装製作業者は、自らが主体となってコスプレ衣装の複製・翻案を行ったと評価され、複製権や翻案権の侵害主体であると認定されるおそれもあります。また、顧客による複製権や翻案権の侵害をほう助した(手助けした)と認定されるおそれもあります。
 業者が侵害主体になるのか、あるいはほう助に留まるのかは、著作権侵害への関与の程度により判断されます。コスプレ衣装製作業者の侵害主体性についてはほとんど議論がされていませんが、一般的な侵害主体についての考え方にあてはめると、①著作権侵害のために必要不可欠の行為を行っている、②著作権侵害によって利益を得る立場にある場合には、侵害主体であると認定される方向に傾くのではないかと思います。

 さらに、ECサイトで出品者が顧客に対してコスプレ衣装を販売する場合、譲渡権侵害の侵害主体なのは一次的には出品者です。ですが、ECサイト運営者も、著作権侵害を認識したにもかかわらず長期間にわたって著作権侵害を解消するための措置を取らなかった場合などには著作権侵害の責任を負いますので、権利者から出品差止めの要求があったECサイト運営者は、適切に対応しなければなりません。
 ECサイト運営者の責任について詳しくは、ネットモール(ITモール)運営者は、モールへの出店者と利用者のトラブルについて責任を負うか!?をご参照ください。

3 マリカーの事件

 最近、大手ゲームメーカーの任天堂が、同社の世界的人気ゲームソフトの「マリオカート」(通称「マリカー」)のキャラクターの衣装と合わせて公道を走行できるゴーカートをレンタルできるサービスを提供する業者に対して、知的財産権侵害を理由にレンタル事業の差止請求訴訟を提起したことがニュースになりました。そして、東京地裁でその事件の判決が出されました(東京地裁平成30年9月27日判決。裁判所のHPで公開されている判決文はこちらです。)。

 任天堂の請求は多岐に渡りますが、コスプレ衣装の点については、任天堂側は①「マリオ」などのキャラクターの衣装のレンタルサービスは同衣装についての貸与権侵害である、②同衣装は著名な商品等表示であるから不正競争防止法違反であると主張していました。これに対し、裁判所は、①の著作権の点については判断せずに、②の不正競争防止法違反の主張を認め、任天堂側の請求を一部認容しました。

 衣装の著作権の問題が判断されなかったのは残念ではありますが、キャラクターの衣装を用いたサービスについて不正競争防止法による差止請求が認められたという点で重要な意義を有する判決となりました。
不正競争防止法による差止請求が認められるのは、問題となっている衣装が特定の事業者の商品またはサービスを示すものであると広く認識されている場合(「著名な商品等表示」に該当する場合など)に限られます(不正競争防止法2条1号など)。
 マンガのキャラクターの衣装が広く著名になっている場合には、そのコスプレ衣装を使用することや衣装を譲渡することなどは、不正競争防止法違反になる可能性があります。

4 まとめ

 今回は、コスプレ衣装に関する著作権の問題を中心に解説しました。
 まだコスプレ衣装に関する有名な裁判例はなく、議論があまりされてはいない分野ですが、コスプレブームの高まりとともに今後問題となってくる可能性があります。コスプレ衣装を扱う事業者は、複製権、翻案権、譲渡権などの侵害になる可能性があるため、その衣装に著作権があるかどうかを慎重に判断するか、権利者の許諾を取るようにするべきでしょう。

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