著作権侵害の告訴など、著作権者が刑事手続に関与する際の注意点

著作権を侵害した者は、民事上は著作権者から損害賠償請求や差止請求を受けますが、そのほか、刑事上も、警察の捜査を受けたり起訴されて、有罪判決を受ける可能性があります。
今回は、著作権法違反の刑事事件について、著作権者側の視点で解説いたします。

1 著作権法違反の刑事罰の内容

著作権を侵害した場合の刑事罰については、侵害態様によって細かく定められていますが、よく問題になるものとして、次のものが挙げられます。

刑事罰の内容

2 刑事手続への関与

刑事事件は、警察が捜査により証拠を集め、検察官が起訴することで、刑事裁判の手続に進みます。
著作権者は、被害者として、次のことに関与することがあります。

2-1 告訴、被害届とは

まず、警察が捜査を開始するときのきっかけとしては、著作権者による告訴や被害届が中心です。
告訴とは、犯人(著作権侵害者)の訴追を求めることをいい、被害届は、犯罪行為があったことを捜査機関に報告することをいいます。

著作権法違反の刑事事件は、平成30年12月29日までは、被害者の告訴がなければ捜査に着手できないとされていました(これを「親告罪」といいます。)。
ですが、TPP関連法案の成立により、著作権法違反の刑事事件は、被害者の告訴がなくとも捜査を開始できると改正されました。

改正された平成30年12月30日以降は、被害者からの告訴がなくとも、警察が捜査を開始できるようになりました。

もっとも、警察などの第三者からすれば、ある者が他人の著作物を利用していたとしても、ライセンス契約に基づいているのかどうかはわかりません。
そのため、基本的には、ライセンス関係にあるかどうかを把握している著作権者の告訴があってから捜査が始まるという運用は変わらないのではないかと思います(まだ改正されたばかりで、今後どのようになるかは実務の積み重ねで決まってくるでしょう。)。

2-2 告訴状作成の際の注意点

警察は、告訴状を受け取った場合必ず捜査に着手しなければならないとされているため、告訴状に少しでも不備があると受理してくれません。
つまり告訴状を作成する際には、過不足なく、必要な事項の記載と証拠の添付が必要となります。

告訴状には、告訴する者の情報などの形式部分のほか、著作権侵害の事実があることを、法律の要件に従って記載しなければなりません。

一般的な記載例は、次のとおりです。
「告訴事実」の内容には、被告訴人のどのような行為が自分の著作権を侵害したのかについて、詳細に記載することになります。

著作権侵害の告訴など、著作権者が刑事手続に関与する際の注意点

なお、虚偽の告訴をした者は、虚偽告訴罪(刑法172条)として、3月以上10年以下の懲役に処せられる可能性があります。
そのため、できるだけ著作権法に詳しい専門家に相談して告訴状を作成するべきです。

2-3 供述調書の作成への関与

警察は、告訴状を受理した後は、独自の捜査を開始します。
その際に、著作権者から詳しく話を聞くこともあります。

このとき、著作権者が話した内容は、「供述調書」という、その後の刑事裁判での証拠となる可能性がある、重要な証拠書類となります。
そのため、犯人の処罰を求めるのであれば、しっかりと供述調書に話した内容を残してもらうことが重要です。

2-4 証人尋問での注意点

事案が複雑であるケースなどでは、著作権者の証人尋問が実施されることがあります。
証人尋問は、裁判官の前で、虚偽を述べないことを宣誓し、検察官や弁護人からの質問に答えていくものです。

ただし、虚偽を述べないことを宣誓したにもかかわらず、自分の記憶と違ったことを話してしまうと、偽証罪(刑法169条)として、3月以上10年以下の懲役に処せられるおそれがあります。

2-5 示談する際の注意点

被疑者・被告人が犯罪を認めている場合、弁護人を通じて、示談の申込みがされることがあります。

刑事事件での一般的な示談書は、あくまで単なる合意書にすぎないので、せっかく示談書に「被疑者は、被害者に対し、本件の示談金として、金〇万円を支払う。」との条項が書かれていても、被疑者がその後に支払を一切してこない可能性もあります。

そのため、示談をするときは、先に示談金を支払ってもらうか、裁判所の手続上で示談するようにして強制執行できるような書類にしておくべきです(「刑事和解」などの手続があります。)。

3 まとめ

今回は、著作権者が被害者として刑事事件に関与する際の注意点等を解説しました。

もしご自身の著作権が侵害され刑事告訴を検討される場合には、著作権法をしっかりと理解して、告訴状を作成することが必要です。

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