偽装出向とは~適法な「出向」と違法な「偽装出向」の違い~

 システム開発の現場では、請負や出向の形式でエンジニアを調達することが多いです。しかし、請負については「偽装請負」、出向については「偽装出向」の問題があります。
 「偽装請負」については以前の記事(業務委託契約(SES契約)を適切に行うためは? ~労働者派遣・偽装請負に該当しないための法務対策~)で解説していますので、今回は偽装出向について解説いたします。

1 そもそも出向とは

 「出向」とは、広辞苑では「命令で他の会社や役所の仕事につくこと。」とされていますが、法律では定義が決められておりません。
 一般に言われる出向は在籍型出向のことを指しますが、このほかにも転籍型出向もあります。

  1. 在籍型出向:労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の従業員となって相当長期間にわたって当該他企業の業務に従事すること
  2. 転籍型出向:労働者が自己の雇用先の企業から他の企業へ籍を移して当該他企業の業務に従事すること

 そのため、在籍型出向では、労働者と出向元との間の雇用契約は残ります(休職扱いになることもありますが、雇用契約は残ったままです。)。そして、労働者の勤務形態は、出向先の就業規則で決められることになります。これにより、労働者は出向元及び出向先との間で二重の雇用関係に入ることになります。

 これに対して、転籍型出向では、労働者と出向元との間の雇用契約は合意解約などによって終了するか、出向元企業が使用者の地位の譲渡(民法625条1項)をすることで、出向元との契約関係は一切なくなることになります。

2 出向と職業安定法の関係

 職業安定法では、「労働者供給」に該当する事業を無許可で行うことを禁止しています。関連する条文は次のとおりです。

職業安定法第4条 (中略)
7 この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
第44条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

 職業安定法4条7項では、労働者供給につき、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」をいうとされ、労働者派遣法上の「労働者派遣」は除く、と定義されています。そして、労働者派遣を業として行う者は、許可を受けなければならないとされています。その規制の趣旨は、労働者に対する使用者としての責任の所在を明確にし、かつ、労働者の賃金に対して供給元と供給先が中間搾取をすることを防止することにあります。
 要するに、他企業に労働者を供給することを事業とすることは、労働者派遣に登録して行わない限りすべて違法であるとされているのです。

 そうしてみると、出向は、それが事業として反復継続してなされる場合には、労働者供給事業に該当し、厚労大臣の許可を受けなければならないことになります。これが原則的な考え方です。

3 従来から行われてきた出向の特徴

 主にグループ企業の間では、出向が頻繁に繰り返されています。では、出向はなぜ職業安定法違反であるとされないのでしょうか。

 従来から行われてきた「出向」は、以下のような目的を達成するためであるといわれています。

  1. ・子会社や関連会社への経営や技術の指導
  2. ・従業員の能力開発、キャリア形成
  3. ・雇用調整
  4. ・中高年齢者の処遇

 これらの目的に基づく出向であれば、責任の所在が不明確になるおそれ、中間搾取により労働者の権利が害されるおそれは、概して高くないと考えられています。そのため、労働者供給事業該当性は問題視されてきませんでした。

4 偽装出向の問題

 近年、「偽装出向」の問題がニュースでも取り上げられるようになってきました。偽装出向には、以下で解説するように、職業安定法上の問題があり、労働局による処分事例も多いです。

4-1 偽装出向とは

 偽装出向とは、一般に、実態は違法な労働者供給であるが、契約上は出向の形式であることをいいます。
 どのような場合に偽装出向であると判断されるかについての基準は明確には定まっていませんが、学説などでは以下の観点から判断すると考えられています。

  1. 〇営利目的かどうか
  2.  ・出向先から出向元に対価が支払われている
  3.   →労働者供給の対価が支払われ、「事業」として行っていると判断される可能性があります。

  4.  ・出向元と出向先がグループ企業ではなく、資本関係もない
  5.   →労働者を供給する以外の目的がないと判断されやすくなります。

  6. 〇反復継続して行われているかどうか
  7.  ・複数の企業に繰り返し出向がされている
  8.   →労働者供給「事業」を行っていると判断されやすくなります。

  9. 〇全体的なスキーム
  10.  ・A社からB社に出向、B社からC社に労働者派遣をしている
  11.   →具体的状況にもよりますが、A社・B社間の出向はC社に派遣する労働者を供給する目的でなされていると判断される可能性があります。

4-2 偽装出向だと判断されないための対策

 出向が偽装出向であると判断されないようにするためには、上記の観点を踏まえ、次の対策を行うことが有益です。

  1. ・出向先でどのようなスキルを身に付けるのか等の職業訓練計画書を作成しておく
  2. ・出向の対価と疑われる支払をしない
  3. ・出向先企業を限定する
  4. ・A社→B社→C社間で出向や派遣をする場合、B社を介さずA社→C社で労働者派遣を行う

 出向の対価については要注意です。例えば「業務委託料」や「コンサル料」という名目で支払がなされている場合であっても、金額の大きさ、支払と出向の時期の近さ、過去の支払と出向の回数の対応関係などから、出向の対価としての支払であると判断されるリスクが残ります。

5 まとめ

 以上、今回は偽装出向の問題点について解説しました。
 システム開発の際には出向によりエンジニアを調達する場合がありますが、その実質が無許可の労働者供給事業であると判断されると、職業安定法により刑事罰が科されることもありえますので、注意が必要です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士萩谷真樹

担当者プロフィール

企業法務の中でも、特に知的財産権分野を得意としている。同法人のIT・EC事業に特化している弁護士とともに、知的財産権分野という専門性の高い領域で、お客様へのサービス提供を行っている。

ピクト法律事務所

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