税関で知的財産権侵害物品の差止めができる!?

 日本へ輸入する商品が他人の知的財産権を侵害するものであった場合、輸入業者は、輸入の差止請求を受け、税関に商品を没収される可能性があります。一方、商品について知的財産権を持っているクリエイターの方も、海外で模倣された海賊版の輸入の差止めを税関に対して求めることができます。
 今回は、海外から知的財産権侵害商品に関する輸入差止請求について、税関手続をメインに解説します。

1 輸入差止請求の法的根拠

 知的財産権を侵害する物品に対する輸入の差止請求は、各法律に規定してあります。

  1. ・特許法101条1項
  2. ・著作権法113条1項1号(みなし侵害)
  3. ・商標法36条1項
  4. ・意匠法37条1項

 日本の司法システムは、自力救済を禁止しています。つまり、自らの権利が侵害されそうになっている場合でも、まずは裁判所に対してその権利の有無を審理・判断してもらわないといけないのです。
 ですが、このように裁判所での審理をいちいち求めていては、海賊版の輸入に対して効果的に差止請求をしていくことはできません。裁判所での審理には、どんなに急いでも最低数ヶ月はかかるからです。

 そこで、関税法では、知的財産権の権利者は税関に申請することによって、裁判所の判断を経ることなく、知的財産権侵害物品の輸入の差止めを請求できると定めています。

2 税関での手続概要

 裁判所での審理は、原告の主張(訴状)、被告の反論(答弁書)から始まり、双方の反論・再反論を経て、最終的に裁判所が判断を出します。
 一方、税関での手続は、以下のように法律で定められています。

2-1 関税法での定め

 知的財産侵害物品は、関税法69条の11で輸入が禁止されています。

(輸入してはならない貨物)
第69条の11 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
(中略)
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
十 不正競争防止法第二条第一項第一号から第三号まで又は第十号から第十二号まで(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第十九条第一項第一号から第五号まで、第七号又は第八号(適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品
2 税関長は、前項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物で輸入されようとするものを没収して廃棄し、又は当該貨物を輸入しようとする者にその積戻しを命ずることができる。
3 税関長は、この章に定めるところに従い輸入されようとする貨物のうちに第一項第七号又は第八号に掲げる貨物に該当すると認めるのに相当の理由がある貨物があるときは、当該貨物を輸入しようとする者に対し、その旨を通知しなければならない。

 上記のとおり、税関では取り締まりが行われ、輸入禁制品を輸入した、輸入しようとした者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処されます。
 また、侵害物品は税関で没収・廃棄されます。

 なお、他の輸入禁制品には、覚せい剤などの薬物、武器、児童ポルノなどが挙げられています。

2-2 差止請求手続の流れ

 関税での輸入差止請求手続の流れは、以下の図のとおりです。

税関で知的財産権侵害物品の差止めができる!?

 

 この流れの中で注意しなければならないのは、意見や証拠の提出を求められた場合、10日以内に提出しなければならない点です。
 そのため、輸入の差止請求を申し立てる時点で、侵害製品の情報はある程度入手しておき、意見の書面を準備しておかないと間に合わないでしょう。

2-3 実績

 いままで、日本の税関で没収された知的財産権侵害物品には、メモリーカード、電子ゲーム機のコントローラー、魔法瓶などがあります。
 詳しい件数等は、財務省のHP で公開されています。

2-4 輸出も禁止されている

 知的財産権侵害物品は、輸入だけではなく、輸出も禁止されています(関税法69条の2)。
関税で輸出の差止めを求める手続は、輸入の差止請求の場合とほとんど同様です。

3 輸入差止請求の申請書サンプル

 以下のリンクは、輸入差止めの申請書記載例を税関が公開しているものです(pdfデータが開きます)。
税関HP

 こちらの記載例を項目別にまとめますと、①自分が権利者であること、②自分の権利の内容、③相手方の製品の特定、④相手方の輸入行為を特定する情報に分けられます。
 このような主張は、基本的には裁判所で差止請求を審理してもらうときと似ています。添付すべき証拠(相手方の製品のサンプルの画像など)も、できるだけ充実している方が、裁判所での審理と同様、税関で的確な判断を受けることができます。

4 税関での手続のメリット・デメリット

 上位のような流れで行われる税関での輸入差止手続のメリットは、なんといってもその迅速さにあります。
 10日以内に意見や証拠を提出しなければならず、その後の税関での判断もスムーズに出されることが多いようです。

 反対に、デメリットとしては、正確な判断が保証されていない点が挙げられます。
 税関の職員は、司法についての正確な知識を有しているとは限りません。そのため、真実は侵害物品であるにもかかわらず、侵害物品に非該当であるとの判断が出されることもあります。

5 まとめ

 海外から日本に知的財産権侵害商品を輸入することはできません。もっとも、他人が作成した商品の輸入を扱うEC事業者にとって、それが知的財産権侵害商品かどうかは判然としないこともあります。
 海外で商品を仕入れる際には、売買契約書で知的財産権侵害商品でないことの表明保証を受けることが多いと思いますが、本当に侵害品でないかを念入りに確認しないと、輸入の差止請求を受け商品が没収される事態になりかねません。
 また、自らが権利を有している商品の海賊版が輸入されそうになっているときにも、税関での差止請求手続も選択肢に入ってきますので、上述のメリット・デメリットを踏まえ、検討するようにしましょう。

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