スマートスピーカーを用いる通販事業者が知っておくべき民法改正

 近年、Google HomeやLINE Clovaなどのスマートスピーカーを用いて、ユーザー(消費者)がスピーカーに対し音声で商品の発注を依頼するとその商品を買うことができるようになるサービス(通販サービス)が増えてきました。しかし、音声による発注であっても、これは売買契約ですので、民法等の法令が適用されます。
 通販サービスについては、以前も誤操作・誤入力でネットで商品を購入した場合【間違えて申込ボタンを押してしまった!個数を間違えてしまった!】にて書いているところですが、今回は①民法改正の影響はどうなのか、②スマートスピーカーを使った通販サービスを法的に分析するとどうなるのか、について焦点を当てて解説します。

1 契約成立の基本原則

 どのような売買契約であっても、契約の成立や無効になる場合の基本的なルールは同一です。以下で簡単に解説します。

1-1 成立のための要件

 売買契約では、買主が「この商品を買いたいです」との意思表示(申込み)、売主が「その商品を売ります」との意思表示(承諾)をすることになります。民法に売買契約についての条文が定められています。

(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 このように、買主と売主の意思が合致してはじめて売買契約が成立するのです。

1-2 間違って発注してしまった場合の処理

 契約は、当事者双方の意思が合致することで成立します。この意思の合致は、形式的なものでもよく、真実は「買いたくない」と思っていても、表面上の意思の合致さえあれば契約は成立することになります。
 しかし、それでは、言い間違いや勘違いなどにより売買契約を締結してしまった買主にとって酷な結果となります。
 そこで、民法は、このような買主などを保護するために、「錯誤」という制度を設けました。

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 要素の錯誤とは、契約の重要部分に勘違いがあったことを言います。例えば、買おうと思っていた商品とは別の商品を発注してしまった場合、要素の錯誤があったこととなります。

 なお、錯誤の条文は、平成32年(2020年)4月1日から、新しい条文が施行されることになっています。現行民法の規定ですと、どのように処理されるか不明確なケースがあったため、今までは最高裁の判例に従って実務上処理していたのですが、今回の改正では最高裁の判例が条文化されることになりました。しかしながら、実務上の対応が大きく変わることはありません。

改正民法
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
(以下略)

 簡単に説明すると、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」(改正法95条1項1号)というのは、「チョコを10個買おう」と思っていたのに、間違って「100個買います」と言ってしまった場合のことをいいます。
 また、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(改正法95条1項2号)とは、「明日登山に行く予定だと言われているから、チョコを10個買おう」と思ってチョコを10個買ったのに、登山に行く予定はなかった場合のことをいいます。つまり、売買契約をする動機・原因について勘違いがあった場合のことです(これを「動機の錯誤」といいます。)。

 これらの勘違いがあった場合には、表意者は売買契約を「取り消す」ことができます。改正前は錯誤があった場合には売買契約は「無効」であって、いつでも誰でも、その契約が効力を有しないことを主張できたのですが、改正後は一定の範囲の者が取消権を行使してはじめて契約の効力を否定することができるようになります。

1-3 一人では契約できない人

 未成年者や成年被後見人は、判断能力が低いことから、内容を正確に理解してから契約を締結することが難しいため、基本的には一人では契約を締結できないとされています。
 ただし、未成年者については、親などの法定代理人が目的を定めて処分を許した範囲などでは自由に契約できます。また、成年被後見人は、日用品の購入など、日常生活に関する契約は自由にできます。

 なお、成人年齢については民法が改正され、平成34年(2022年)4月1日から施行されることになっています。

2 関係法令の規定

 売買契約の基本形は民法に定められていますが、売買契約の方法も様々なものがあり、そのすべてで基本形を適用すると不都合が生じる場面があります。
 スマートスピーカーに関連する他の法令等の定めは、以下の通りです。

2-1 消費者契約法

 事業者が一般の個人に通販で商品を売る際には、消費者契約法が適用されます。消費者契約法は、民法の錯誤や取消しの規定だけでは悪質な業者から保護することができない消費者を保護するために、民法の特別法として制定された法律です。

 主な規制内容は、事業者が消費者に嘘をついて契約をさせた場合や、事業者にとって非常に有利(消費者にとって非常に不利)な契約が締結された場合には、契約の全部または一部が無効になる、というものです。

2-2 電子契約法

 電子契約法は、例えばAmazonのウェブサイト内で商品を購入する場合など、ユーザーの入力フォーム画面が事業者に用意されている場合などに適用がある法律です。
 そのため、スマートスピーカーでの売買には、基本的には電子契約法の適用はありません。

 電子契約法については、以前の記事(誤操作・誤入力でネットで商品を購入した場合【間違えて申込ボタンを押してしまった!個数を間違えてしまった!】でも解説していますので、詳細はそちらをご覧ください。

3 事業者の対策

 事業者としては、なにより誤発注を防ぐ仕組みづくりを行うことが重要です。
 例えば、音声での発注の後、ユーザーに注文確定手続を別途してもらうなどが挙げられます。これにより、ユーザーが勘違いや言い間違いなどで注文するリスクを大きく減らすことができます。

 もっとも、注文確定手続によってもすべてのトラブルを防げるわけではなさそうです。「届いた商品が思ったのと違ったから返品したい」というのが通販トラブルでも多く見られますが、注文確定手続ではこのトラブルを防ぐことはできません。
 このトラブルを防ぐには、商品紹介ページにしっかりと商品の詳細を書く、他のユーザーやスタッフが使用してみた感想を掲載するなどの地道な努力が有効だと考えられます。また、こうすることでユーザーが思った通りの商品を買うことができるようになり、評判も上がると考えられます。

4 まとめ

 スマートスピーカーでの通販サービスは、最近流行ってきていますが、ちょうど民法改正のタイミングと重なり、法律関係が錯綜しそうな場面だといえます。
 関係する事業者の方は、民法改正や、今後これに伴って省庁から発表される様々なガイドラインをチェックしていくことが重要です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士萩谷真樹

担当者プロフィール

企業法務の中でも、特に知的財産権分野を得意としている。同法人のIT・EC事業に特化している弁護士とともに、知的財産権分野という専門性の高い領域で、お客様へのサービス提供を行っている。

ピクト法律事務所

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