モールに対して知的財産権侵害の通報をする際に実務上注意するべき点

 せっかく商標権や著作権を有していても、適切に権利行使できなければ、自己の事業などを守ることはできません。インターネットオークションなどの場を提供しているモールでは権利侵害窓口を設置しているので、これをうまく使いこなすことが大事です。

1 差止請求とは

 商標法や著作権法では、商標権や著作権を有する権利者は、侵害者に対して、その侵害の差止請求を行うことができます(商標法36条、著作権法112条)。
 具体的には、侵害者に対して商品の出品や販売を中止するよう請求する方法と、モールに対して商品の出品ページの削除を請求する方法があります。

1-1 差止請求は誰に対してすればいいの?

 もっとも簡単な方法は、モール内に用意されている権利侵害を通報するためのページから、権利侵害がある旨のフォームをモール運営者に送信する方法です。例えば、楽天では「権利者侵害通知窓口」で、権利者の連絡先、侵害されている権利などの情報を送信するとされています。
 侵害者(出品者)に販売の差止請求を直接していく方法もありますが、まず身元を調査する手間がかかることなどから、通常はモールに対して請求することから始めることが多いと思います。

1-2 送信フォームにはどのようなことを書けばいいの?

 モールに対して権利侵害を通報する際に重要なのが、「①どの出品が権利侵害を生じているのか(侵害商品の特定)、②本当に権利侵害が生じているのか(権利侵害の主張)」についてモールが的確に理解できるよう通報することです。
 そして、具体的にどのようなことを記載するかは、侵害される権利が商標権なのか著作権なのかによって若干変わってきます。

1-3 モールに権利侵害を通報する際のコツ(商標権侵害の場合)

 上記の②権利侵害の主張をする際には、理論的に主張することが重要です。理論的に主張することで、権利侵害が生じていることをモール側も把握しやすく、出品ページの削除などの対応がスムーズにされる期待が高まります。

 商標権侵害を主張する際には、以下の点を過不足なく主張することが必要です。

    モールに対する商標権侵害の主張内容

  1. ・自らが商標権者であること
  2. ・侵害者の出品する商品に自らの登録商標が付されていること
  3. ・商標や商品が同一、あるいは類似していること

 出品されている商品が模造品や海賊版である場合には、そのことも主張内容に入れると良いでしょう。
 なお、商標権侵害の要件については、こちらの記事をご参照ください(商標の「使用」とは!?)。

1-4 モールに権利侵害を通報する際のコツ(著作権侵害の場合)

 商品を通販することは、その商品について著作権者が有している譲渡権を侵害することになります。また、商品の画像を出品ページに掲載する行為は、商品画像(デザイン)の複製権、公衆送信権を侵害する行為にも該当します。
 もっとも、権利者に無断で商品を通販する場合であっても、一定の場合には、譲渡権、複製権、公衆送信権の侵害にはならないと著作権法で定められています。

 まず、譲渡権については、権利者が一度販売した真正品については行使することができなくなります(著作権法26条の2第2項1号)。つまり、真正品の中古品の販売は、譲渡権を侵害しないとされているのです。
 また、複製権、公衆送信権については、通販サイトなどにおいて商品の紹介のために画像を掲載するのであれば、権利侵害はないとされています(著作権法47条の2)。
 ただし、違法な模造品や海賊版については、これらの著作権法の規定は適用されません。
 これらのことから、著作権侵害を理由とする通報をする際には、次のことをモールに伝えることが重要です。

    モールに対する著作権侵害の主張内容

  1. ・自らがあるデザインについて著作権者であること
  2. ・侵害者の出品する商品が模造品、海賊版であること
  3. ・自らが権利を有しているデザインと侵害商品のデザインが同一、類似であること

 これらに関する証拠も提出することが望ましいですが、著作権は商標と異なって特許庁での登録なくして発生する権利ですので、提出する証拠については工夫する必要があります。例えば、イラストなどの権利侵害のケースでは、自らが最初にそのイラストを公表した日付(ウェブサイトに掲載した日付や本を発行した日付など)のわかる資料を提出することになります。

2 モールはどのような責任を負うのか

 違法な権利侵害商品を販売するなどして商標権や著作権を侵害しているのは出品者(侵害者)ではありますが、モールなどのネットオークション事業者も、一定の場合にはその権利侵害の責任を負うという法理があります。具体的には、2ちゃんねるに書き込まれた発言が著作権侵害に当たるとしてサイト運営者に対して差止請求がなされた事案で、①そのような発言の提供の場を設けた者として、②その侵害行為を放置している場合には、サイト運営者も責任を負うことがありうるとした裁判例があります(東京高等裁判所平成17年3月3日判決)。
 インターネットオークションのサイトでもこの裁判例と同様に考えられますので、権利侵害の通報を受けたモールは、権利侵害が生じていることを認識した後、その状態を放置してはならず、権利侵害についての詳細な調査を行ったり、速やかに出品ページの削除を行ったりするなどの対応をとる必要があります。

 一方、実は権利侵害が生じていないのに、権利者からの通報を受けてモールが出品ページを削除してしまった場合には、今度はモールが出品者の適法な商品販売事業を不当に妨げたことになり、出品者に対する損害賠償責任を負うリスクも負っています。

 そこで、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)では、権利者からの通報を受けて出品ページを削除したネットオークション事業者などの負う責任を一定の場合には免除するなどを定められています。
 これに関連して、民間団体である「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」が、権利者が通報する際の書式のひな形や通報に際して参考とするべきガイドラインを定め、公表しているので、通報する際の参考になります(プロバイダ責任制限法関連情報Webサイト)。

3 モールが出品ページを削除しない場合には?

 モールに対して権利侵害の通報をしたにもかかわらず出品ページの削除がなされない場合には、権利者としては、直接出品者に対して権利侵害の差止請求をする必要があります。侵害者が法人の場合には登記簿を取得したり、発信者の身元が不明な場合には発信者情報開示請求を行い身元の調査をしたりする必要があります。そして、判明した侵害者に対して差止めを求める書面を送付しても出品が止まらないときは、裁判所に商標権等侵害差止請求訴訟や差止めの仮処分を提起することになります。

4 まとめ

 今回は、権利者がモールに対して自らの商標権や著作権が侵害されていることを効果的にモールに通報するためのコツを解説しました。
 せっかく商標権や著作権を有していても、効果的に主張をしなければ権利を守ることはできません。モールに対して権利侵害の通報をする際には、理論的であること、証拠をつけることに留意して、行うようにしましょう。

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