3Dプリント技術の著作権法上の問題点とは!?

 近年、3Dプリント技術の目覚ましい発展に伴い、個人・法人問わず、3Dプリント技術を使う方が増えてきているように感じます。しかし、新しい技術の登場は、新しい法的問題の登場でもあるので、3Dプリント技術を用いる際には法的問題について検討することが求められます。政府でも、平成28年4月に「次世代知財システム検討委員会」で3Dプリント技術の知的財産権の問題の検討がなされています。
 今回は、3Dプリント技術の法的問題のうち、著作権について検討していきます。

1 3Dプリント技術とは?

 3Dプリントとは、物品を3Dスキャナでスキャンするなどして3Dデータを作製し、その3Dデータを3Dプリンターで出力して物品(以下では「プロダクト」と呼びます。)を作製することをいいます。3Dデータは、既存の物をスキャンしたりすることで作製されるケースと、0からデータを打ち込み作製されるケースがあります。

2 3Dデータを作製する際の著作権法上の問題点とは?

 3Dプリント技術を利用した物品の作製の際、既存の物品、3Dデータ、出力されたプロダクトのそれが著作物なのでしょうか。また、それぞれの作製の際に、著作権の問題に注意するべきなのはどの場面でしょうか。
 以下では、場合分けをして解説します。

2-1 既存の著作物を3Dスキャンする場合

 既存の物品を3Dスキャンして3Dデータを作製するとき、既存の物品が著作物である場合には、最初に、その著作物を3Dスキャンする行為が著作物の複製になるかが問題となります。

 まず、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」は例示と考えられていますので、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であれば著作物に当たることになります。
 また、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいいます(著作権法2条1項15号)。より正確に言えば、著作権法上の「複製」に当たるためには、既存の著作物への依拠性(既存の著作物をもとにしていること)、類似性(既存の著作物と表現が同一・類似であること)の2つの要件が認められる態様で作ることが必要です。

 そうしますと、形状や色彩に創作性のある既存の著作物を3Dスキャンして3Dデータを作製する行為は、既存の著作物をもとにしており(依拠性)、かつ、3Dデータに正確に形状や色彩が反映される(類似性)場合には、著作物の複製に該当する可能性が高いです。

2-2 0から3Dデータを作製する場合(スキャンしない場合)

 既存の著作物をもとにはするが、3Dスキャンはせず、CADソフトなどを用いて3Dデータを作製する行為も、同様に考えることになります。

 すなわち、スキャンはしていなくとも、既存の著作物をもとにしていること(依拠性)、3Dデータ上で既存の著作物の形状や色彩が正確に反映されていること(類似性)が認められれば、3Dスキャンをせずに3Dデータを作製する行為も複製に該当する可能性が高いです。

 一方、既存の物品が著作物ではない場合、その3Dデータも著作物にはなりません。もっとも、著作物ではない平面的(2D)な物品から立体データを作製した場合には、立体化させたことが創作的表現であるとして著作物になることもあります。

3 3Dデータや出力された立体物の取扱いについての問題点とは?

 今度は、3Dデータの利用(データ売買や出力)についての問題点を解説します。

3-1 3Dデータの取引

 既存の著作物が立体的なものである場合には、3Dデータは既存の著作物の複製物になります。一方、既存の著作物が平面のものだった場合、それに依拠して作製された3Dデータは、既存の著作物を立体的にしたという創作的工夫が追加されているので二次的著作物に当たります。
 しかし、いずれにせよ、既存の著作物の複製品、二次的著作物であることから、当該3Dデータの取引には、原著作物(もとになった著作物)の著作権者の権利に配慮しなければなりません。すなわち、3Dデータをインターネット上、あるいはUSBメモリー等に入れて他のサーバーやPCに「移す」行為は、著作物の複製、公衆送信や譲渡に該当するのです。

3-2 3Dデータの出力行為

 3Dデータを3Dプリンターで出力する行為は、3Dデータに依拠し、同一・類似の新たな物品を作製する行為ですので、3Dデータの複製に当たり、複製権侵害の問題が生じます。
 ただし、3Dプリンターの精度が低く、3Dデータを正確に出力できない場合には複製とはいえないケースもありうるでしょう。

3-3 出力したプロダクトの取引

 3Dデータを出力して作製されたプロダクトは、3Dデータの複製物であるほか、場合によってはおおもとの著作物の複製物や二次的著作物であることもあります。
 そのため、出力されたプロダクトの取引(売買などの譲渡、公衆送信など)は、3Dデータの著作権者やおおもとの著作物の著作権者の許諾を得なければなりません。

4 私的複製となるか?

 上記のとおり、おおもとの物品が著作物である場合、①3Dスキャン行為、②3Dデータの取引、③3Dデータの出力、④出力されたプロダクトの取引が、すべて著作権侵害の問題が生じる可能性があります。

 ただ、個人で3Dスキャナーや3Dプリンターを使う場合には、一定の範囲で、「私的複製」として権利者に無断で行っても適法となる場面があります。
 私的複製とは、個人的に使用する場合に、複製権侵害とならないケースのことをいいます(著作権法30条1項)。ただし、不特定多数の者に複製物を譲渡する目的等で複製しても、私的複製にはなりません。
 そのため、事業として3Dスキャンや3Dプリントを行う場合には、私的複製にはならないと判断される可能性が高いです(近年問題となった自炊代行と似ています)。

5 3Dスキャン・3Dプリント事業の注意点

 顧客から物品の3Dスキャンを依頼されたり、3Dデータを出力しプロダクトを作製することを事業として行っている方は、その事業のほぼすべての場面で、前述の著作権法上の問題が生じる可能性があります。
 そのため、顧客から依頼を受ける前には、顧客が自ら作成した物品や3Dデータであるかどうかを確認することが必須です。依頼する顧客の方でも、権利関係の明確な物品を依頼するようにするべきです。
 大手の事業者であるDMM.makeでも、顧客本人に権利があるものしか受け付けないようにしているようです。

6 まとめ

 3Dプリント技術は急速に広まりを見せていますが、まだどのような行為ならば適法か、どのような行為をしたら違法なのかについて、明確な基準があるわけではありません。また、裁判例などもなく、著作権法をどのように解釈するべきかについても議論が不十分です。
 3Dスキャンや3Dプリント事業を行う方、あるいは顧客として依頼する方は、自らの行為が著作権法に反しないか、注意することが重要です。

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