ライセンス契約後の侵害行為に対して権利主張できるのは誰!?

 著作権者が他人に著作物の利用を許諾した後に侵害者が現れた場合、侵害者に対して差止請求や損害賠償請求をすることができるのは誰かが問題となります。今回は、ライセンス契約後の侵害行為に対して権利主張できるのは誰かという点を解説します。

1 著作者による権利主張(原則)

 まず、著作物を創作した著作者は、著作権と著作者人格権の2種類の権利を有しています。
 そのため、著作者は、当然にこれら2種類の権利を主張し、侵害者に対して差止請求や損害賠償請求をすることができます。

2 通常ライセンス契約の場合

 ライセンス契約(著作物利用許諾契約)には、通常ライセンス契約と独占的ライセンス契約があります。独占的ライセンス契約とは、著作権者が第三者には著作物の利用を許諾しないことを約してする著作物利用許諾契約のことをいいます。
 以下では、著作者が誰にも著作権を譲渡していないときにライセンス契約を締結した場合を前提として解説していきます。

2-1 ライセンサーは権利主張できるのか?

 通常ライセンス契約の場合には、著作者(ライセンサー)は利用許諾を受ける者(ライセンシー)に対して、単に著作物を利用することを許諾しているにすぎず、まだ著作権と著作者人格権を有している状態です。
 そのため、通常ライセンス契約後にも、著作者は侵害者に対して権利主張をすることができます。

2-2 ライセンシーは権利主張できるのか?

 ライセンシーはライセンサーから著作物の利用を許諾されていますが、これは契約によって、「著作物を利用する権利」を有しているにすぎません。つまり、ライセンス契約は、著作物を利用しても著作者から権利主張をされない地位を獲得するための契約にすぎないのです。
 そのため、通常ライセンス契約におけるライセンシーは、侵害者に対して権利主張をすることはできません。

3 独占的ライセンス契約の場合

 独占的ライセンス契約が締結されると、ライセンサーは第三者にライセンスを与えることはできなくなります。一方、ライセンシーは、その著作物を利用する権利を独占的に獲得することになります。

3-1 ライセンサーは権利主張できるのか?

 ライセンス契約の場合と同様に、独占的ライセンス契約が締結された後も、ライセンサーは著作権と著作者人格権を有したままです。
 したがって、ライセンサーは、独占的ライセンス契約後にも、侵害者に対して権利主張をすることが可能です。

3-2 ライセンシーは権利主張できるのか?(差止請求について)

 この場合も、ライセンシーは、あくまでライセンサーとの契約によって著作物を利用できる権利を有するにすぎないため、侵害者に対して、自らの権利に基づいて権利主張をすることはできません。

 もっとも、独占的ライセンス契約の場合、通常ライセンス契約と異なり、ライセンシーはその著作物を独占的に利用する権利(債権)をライセンサーから法的に保障された地位を得ることになります。そして、著作者が侵害者に対して権利主張をしない場合にまで、ライセンシーが一切権利主張できないという結果になると、独占的ライセンス契約を締結した目的を達成することができません。

 そのため、独占的ライセンス契約のライセンシーは、著作者の有する差止請求権を代わりに行使できると解されています(これを「代位行使」といいます)。根拠としては、民法423条1項が挙げられます。

(債権者代位権)
第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

3-3 ライセンシーは権利主張できるのか?(損害賠償請求について)

 では、独占的ライセンス契約のライセンシーによる損害賠償請求は可能でしょうか。

 通常ライセンス契約の場合には、前述のとおり、ライセンシーは著作者に対する権利を有するにすぎませんでした。独占的ライセンス契約においても、ライセンシーが有する権利は、基本的には著作者に対する権利ですので、同じように侵害者に対する損害賠償請求も認められないようにも思えます。

 ですが、独占的ライセンス契約におけるライセンシーは、市場において独占的にその著作物を利用できる法的地位にあります。つまり、市場において著作物の模倣品が出回ることは通常想定されないのであり、ライセンス契約もこのことを前提に締結されます。
 そうすると、模倣品が流通することによってライセンシーの商品の売上が下がった場合、それはもはやライセンシーの前記法的地位を侵害する事態であると考えることができます。

 そのため、独占的ライセンス契約におけるライセンシーは、侵害者に対して、自らの法的地位が侵害されたとして、侵害者に対し損害賠償請求ができるとされています。

 過去の裁判例でも、複数の執筆者と共同で教科書を作成・出版した出版社が、執筆者らとの間で独占的ライセンス契約を締結したため、教科書を朗読した音声を収録したテープを無断で販売する業者に対して、出版社は執筆者全員分の損害賠償請求ができるとした事例があります(東京地裁平成3年5月22日判決)。

 ただし、損害賠償請求が認められるためには、自らの行為が独占的ライセンス契約のライセンシーの法的地位を侵害していることを侵害者が認識していること(=故意があること)が必要です。

4 著作権譲渡の場合

 著作権が著作者から譲渡された場合、譲渡を受けた者は著作権を有することになります。そのため、譲渡を受けた者は、この著作権を根拠にして差止請求や損害賠償請求をすることができます。

 もっとも、著作者から譲渡されるのは著作権のみであり、著作者人格権は譲渡されません。著作者人格権は、著作物を公表するか、作成者の氏名を表示するかどうかを決められる、人格的な権利だからです。
 そのため、著作権譲渡がされた後も、著作者は著作者人格権に基づく権利主張が可能です。

5 契約書ではどうなっているか

 ライセンス契約書では、通常ライセンスの場合も独占的ライセンスの場合も、侵害者に対する対応を定めておくことがあります。
 よく契約条項に入れられるのが、「侵害行為に対して、ライセンサーとライセンシーは協議して対応する。」というものです。
 もっとも、契約条項でこのように定めても、いざ裁判を提起するなどの法的措置をとる際には、上記で述べたように、誰が権利主張できるのかが重要となってきます。仮に通常ライセンスの契約書で「ライセンシーが訴訟提起できる。」と定めても、ライセンシーによる訴訟提起は裁判所では認められない可能性があります。

 実務上、「協議して対応する。」と定めるメリットとしては、侵害者に対して権利主張をする/しないの協議や、ライセンス契約の解約や契約条項の見直しを行うなど柔軟に対応できるようにしておく点が挙げられます。

6 まとめ

 今回は、ライセンス契約における当事者が侵害者に対して権利主張できるのかという点を解説しました。
 この点は、実務でも、ライセンス契約後の侵害行為に対して、もし自らが権利主張できないのであればライセンス契約を解約するかなど、重要なビジネスジャッジに必要な知識でもあります。

 もしライセンスを受けた後にライセンシーから権利主張したいとお考えの場合には、弁護士に相談されるのが良いと思います。

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