ひとつの作品や商品を全部自分で作成できることは少なく、ほとんどの場合、複数人で作成することになります。その場合、作品等について生じる著作権の権利関係はどのようになるのでしょうか。
今回は、複数人で著作物を作成した場合の権利関係について、解説します。
目次
1 複数人で著作物を作成すると著作権はどうなるのか
著作権や著作者人格権は、当然ですが、著作物を作成した人(著作者)が取得します。では、複数人で著作物を作成した場合、誰が著作者になるのでしょうか。
1-1 共同著作物とは
複数人で作成した著作物は、一定の条件を満たすと、著作権法上の共同著作物となり、著作者が複数人となることがあります。共同著作物になる要件は、次の3つです(著作権法2条1項12号)。
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共同著作物の要件
- ①2人以上の者が創作的関与すること
- ②共同して作成すること
- ③各人の寄与を分離して個別に利用できないこと
まず、①創作的関与とは、デザインを実際にすることをいいます。逆に、デザインの方向性やアイデアを出しただけの人は、実際のデザインは作成していないので、創作的関与しているとはいえません。会社パンフレットの企画を考えただけ、あるいは社内で決済をしただけの人も、創作的関与をしたとは認められません。
次に、②共同して作成するとは、基本的には同時にデザインを作成することをいいます。ただし、時間的なズレがあっても、少しのズレであれば「共同」しているといえます。
これに対し、時間的なズレが大きい場合には、それはもはや共同著作物ではなく、オリジナルに手を加えて新たな著作物を作り出すこと(二次的著作物の作成)になります。
どの程度の時間のズレがあれば共同著作物といえるかについては裁判例も多くなく、明確な判断基準はありませんが、少なくとも会社内部で2,3日間に渡って複数人でデザインを作成した場合には、共同して作成したといえます。
最後に、③各人の寄与を分離して利用できないこととは、イメージとしては、2つ以上の著作物に分離できないかたちの著作物であることをいいます。例えば、曲(旋律、メロディ)と歌詞は分離できますが、テキストのドラフトを複数人で交互に修正したような場合には、完成版のテキストは各人の寄与を分離して利用できないといえます。
1-2 業務中に作成すると共同著作物ではない!?(共同著作物の例外①)
会社の業務で著作物を作成した場合には、上記の3つの要件を満たしていても共同著作物にはならず、会社が著作者になることには注意が必要です。これを職務著作といいます。
そのため、事業に関連して作成する著作物が共同著作物になるのは、フリーの個人事業主が作成するケースが多いと思います(ただし、個人事業主だからといって必ずしも職務著作にならないとも限りません)。
職務著作の詳しい解説は前回の記事にまとめておりますので(従業員が作成した著作物は当然に会社のもの!?)、そちらをご参照ください。
1-3 動画は全員が著作者にはならない!?(共同著作物の例外②)
会社案内の動画を例にすると、この動画は、視覚的または視聴覚的に表現されており、パソコンのハードディスクやインターネットサーバー等に固定・保存されているので、「映画の著作物」に該当します(著作権法2条3項。会社案内の動画は、一般的な「映画」というと違和感がありますが、著作権法では動画は「映画の著作物」に含まれるとされています)。
そして、映画の著作物の著作者は、その作成に創作的に関与した人全員がなるのではなく、監督など「全体的形成に創作的に寄与した者」だけが著作者となるとされています(著作権法16条)。
(映画の著作物の著作者)
第16条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
「全体的形成に創作的に寄与」とは、映画の著作物を作成するに当たって、一貫したイメージを持って、作成の全体に参加した者をいうと解釈されています。劇場用の映画でいえば、助監督や美術監督は、部分的にしか創作に関与していないので、映画の著作物の著作者には該当しません。
過去の裁判例では、宇宙戦艦ヤマトや超時空要塞マクロスのアニメのプロデューサーが自分に著作権があると主張して裁判を起こしましたが、プロデューサーは制作過程で具体的な指示をしていなかったことなどを理由に、いずれの事件でもプロデューサーは映画の著作物の著作者ではないと判断されました(宇宙戦艦ヤマト事件:東京地方裁判所平成14年3月25日判決。超時空要塞マクロス事件:東京地方裁判所平成15年1月20日判決)。
なお、職務著作が成立する場合には、全体的形成に創作的に寄与した者ではなく、会社などの使用者が著作者になります(著作権法16条但し書き)。
2 共同著作物の権利関係は?
共同著作物の要件が満たされると、その作成者全員が著作者になります。そのため、各人が著作権や著作者人格権を有することになる上、著作者全員で1つの著作権を共有している状態になります。共有というのは、1つの権利を複数人が一緒に持っている状態のことで、2人で共有しているときは各人が2分の1ずつの持分を互いに持っていることをいいます。
そのため、著作権や著作者人格権は、1人では行使することができません。つまり、他の著作者の許諾を受けなければ、著作物を複製することも公表することもできません。また、自分の分の著作権を勝手に第三者に譲渡することもできません。
誰が著作権を共有している仲間なのかという点は、著作物のライセンス契約をどうするかなどを検討する時に重要だからです。
もっとも、他人が著作権を侵害してきた場合には、著作者全員で対処する必要はなく、1人で侵害の差止請求を行うことができます。他の著作者と連絡がつかないケースなどで、侵害を泣き寝入りするしかないという不合理な状況になるのを避けるためです。
3 共同著作物であることの不都合を解消する方法
共同著作物になった場合、上記のとおりライセンス契約をするときに他の著作者の同意が必要になるなど、何かと不便です。
そのため、著作権の共有関係を解消するニーズは一定程度あると思います。
ですが、共同著作物であるかどうかは、著作権法に従って客観的に決められます。そのため、著作物の作成に先立って、契約で「共同著作物にはならない」と決めたとしても意味はありません。
そこで、共同著作物になった場合、共有関係を解消するには、著作物が完成してから他の著作者と契約を結んで著作権の譲渡を行うか、事前に著作権の譲渡を定める契約を締結しておくしかありません。
ただし、著作権は譲渡できても、著作者人格権は譲渡できません。そのため、他の著作者から著作権を譲り受けるときには、著作者人格権を行使しないという内容の特約も結んでおく必要があります。
4 まとめ
以上、複数人が著作物を創作した場合の共同著作物について解説しました。
著作権にまつわるトラブルで多いのが「著作者は誰か」という問題です。著作物を安全に利用できるかどうかも、この点が重要になってきます。
そのため、事業者の方は、事業に関して作成する著作物の著作者は誰なのかという問題意識を常に持つことが不可欠です。