ビッグデータは近年現れた新しいワードです。そのため、既存の法律の中でどのような扱いを受けるものであるかを、一度確認しておくことが有用です。
今回は、ビッグデータを著作権法の観点から解説していきます。もう1点大きな問題となってくる個人情報保護法については、改めて別の記事で解説いたします。
1 ビッグデータとは?
ビッグデータという言葉は数年前から聞くようになりましたが、明確な定義はまだありません。総務省の情報通信白書(平成30年版)でも、「大量のデータ」としか説明されていません。
一般的には、ビッグデータとは単に「大量のデータ」を意味するにとどまらず、量、更新頻度、データの種類等に特徴がある情報の集合体であると言われています。
GoogleやTwitterがユーザーの利用内容から取得する大量の情報が、ビッグデータの典型例です。
2 データベースの著作物性
著作権法には「データベースの著作物」という類型の著作物が定められ、著作権法による保護を受けるとされています。
ビッグデータがデータベースの著作物に該当するかを検討する前に、まずはデータベースの著作物について解説します。
2-1 条文・要件はどうなっている?
著作権法は、次のとおり、データベースが一定の場合には著作物になると定めています。
(データベースの著作物)
第12条の2 データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
2 前項の規定は、同項のデータベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
なお、著作権法上のデータベースの定義は次のとおりです。
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
十の三 データベース 論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。
2 (略)
著作権法の以上の条文からすると、データベースの著作物の要件は、次の3つに整理することができます。
-
データベースの著作物の要件
- ①情報の集合体であること
- ②電子計算機(パソコン)で検索できるように体系的に構成したもの
- ③情報の選択または体系的な構成のいずれかに創作性があること
要件③の「創作性」は、一般的に「ありふれた表現は含まない」と説明されます。例えば、収集した情報を時系列に沿って並べ替えたりするだけでは、創作性は認められません。
イメージとしては、電話帳を単に氏名や住所等から並べ替えたものではなく、業種別に並べ替えた場合には創作性が認められています(東京地裁平成12年3月17日判決参照)。
2-2 参考事例
どのようなケースであればデータベースが著作物として認められるかのイメージを把握するため、1つ参考となる裁判例をご紹介します。
旅行会社向けのデータベースを製造・販売する原告会社が、被告会社の販売するデータベースは著作権侵害であるとして、差止めと損害賠償を請求した事案があります(知財高裁平成28年1月19日判決、原審は東京地裁H26.3.14判決)。データベースの内容は、時刻表、観光施設、宿泊施設等を検索できるもので、いわゆるリレーショナル・データベース(簡単に言えば、「テーブル」と「フィールド」の項目で整理した情報に検索をかけられるようにしたもの)のかたちで作成されていました。
なお、被告会社を設立したのは、原告会社の元従業員でした。
この事案で、裁判所は、次のように判示し、原告会社のデータベースの著作物を肯定しました。
つまり、要件②体系的構成については、収集・選定した情報をどのように構成するか(上記事案では、リレーショナル・データベースのかたちで関連付けされていた)について、創意工夫が必要とされています。
このように、データベースの著作物に該当するためには、情報の選択または体系的構成のいずれかに創作性が認められなければなりません。
近年のデータベースは、網羅的な情報からいかに有益な情報を抽出するか、という点が重要視されるようになってきています。「網羅的」ですので、その「選択」について創作性が認められることは少なくなってきており、体系的な構成にどのような創作性があるかが重要となってきていると考えられます。
3 ビッグデータは著作権法による保護を受けるか?
前述のデータベースの要件からすれば、ビッグデータ自体は生の情報の集合体であって体系的な情報として整理されていないので、データベースの著作物には該当せず、著作権法による保護を受けることはできません。
これに対して、ビッグデータに対して、特徴的・創作的なフィルタリングやソートをかけて作成されたデータは、体系的に整理されたデータといえますので、データベースの著作物に該当する可能性が高いです。特に、特定の事業に利用するためにフィルタリングされたビッグデータであれば、創作性が認められるケースが多いと考えられます。
なお、ビッグデータが著作物であると認められる場合であっても、ビッグデータの著作権侵害が成立するためには、創作性のある部分を侵害者が利用していなければなりません。
例えば、体系的な構成に創作性のあるデータベースそのものを侵害者が複製して販売するケースでは著作権侵害が成立しますが、データベースのうちの一部のみを抽出する行為には著作権侵害は成立しないのです。
4 著作権法による保護を受けなくても
データベースとして著作権法で保護されない場合でも、著作権者にはデータ収集のために人件費や時間等のコストをかけています。そのため、著作権者は、これらのコストをかけて完成させたデータベースの著作物を利用して利益を上げることができる地位にあるといえます。過去の裁判例でも、無断で当該データベースを利用する者に対して、営業上の利益を侵害したとして損害賠償請求を認めたケースがあります(東京地裁平成13年5月25日判決)。
なお、ここでいう損害賠償請求は、あくまで営業上の利益の侵害を理由として認められる請求ですので、著作権侵害を理由とするものではないことに注意です。
5 まとめ
今回は、ビッグデータとデータベースの著作物の関係性を解説しました。
ビッグデータの利活用については、数年前から政府や国会でも集中的に審議されている議題です。また、今国会で成立した著作権法の改正の中でも、ビッグデータの利活用を促進するための規定が盛り込まれています(改正著作権法第30条の4)。
IT・EC事業者の方にとっては、今後ビッグデータの利活用はより一層重大な課題になってきますので、現行の著作権法上での取扱いに加えて、法律の改正動向もキャッチアップしていくことが大事です。