- Home
- EC(IT取引)サイトで未成年者(20歳未満の人)と契約してしまった場合の法律問題【取消の主張への対応方法】
EC(IT取引)サイトで未成年者(20歳未満の人)と契約してしまった場合の法律問題【取消の主張への対応方法】
- 公開日:2014/10/14 最終更新日:2016/07/18
- EC(IT)取引上の問題
- 取消し, 未成年, 詐術, 返金
さて、前回までは、個人情報に関する記事が続きましたが、今回は、EC(IT取引)によくある問題として、お客さんが実は未成年(20歳未満)であった場合の法律関係について書きたいと思います。実際に、子供がECサイトで商品を購入した後に、そのことに親御さんが気が付いて「この契約はなしだ!」なんていわれることは、たまにあります。
未成年者だからしょうがないし、契約はなしにしよう!という判断ももちろんあっていいと思いますが、その判断をするとしても、法律のルールを知ったうえでするというのが望ましいと思いますので、是非ご覧になっていただければと思います。
1 未成年者(20歳未満の人)との取引(契約)について
まず、契約が成立するには「これを買います」(買い主)と「これを売ります」(売り主)の意思表示が合致することが必要であるということは、このサイトの読者の皆様ならもう耳たこですね。
例え未成年者(20歳未満の人)が意思表示したとしても、その合致があれば、契約は成立します。
しかし、未成年者(20歳未満の人)って、大人と同じように判断することを求めることができない面もあります。法律は、未成年者がちゃんと物事を判断した上で契約をしたのかわからない場合が多いことから、未成年者を保護する規定を置いています。具体的には、民法5条が未成年者が意思表示をした場合、「親権者の同意」を得ずになされていれば、それを取消すことができるとしています。つまり、契約を後からなかったことにできるのです。
特に、EC(IT取引)の場合には、店頭での取引等と違って、相手の外見等をチェックできませんので、予期せぬ取消の主張をされることがままあります。
2 取消しがあった場合の処理
契約の「取消し」がされると、契約は遡及的に無効となります(民法121条)。「遡及的に」とかって法律ではよくでてくる言葉なのですが、「さかのぼって」みたいな意味です。つまりは、取消しがあるまでは契約は成立しているんだけど、取消しがなされると、契約成立時点から契約はなかったものと扱われるという意味です。
といってもよくわからないと思うので、実際、取消があった場合は具体的にはどのように処理することになるのかを見てみましょう。
2.1 商品の引渡しやお金の支払いがまだの場合(取引の履行がない場合)
上記の通り、「取消し」がされると契約がなかったことになりますので、未成年者(商品購入者)の代金を支払う義務とEC運営者の商品を引き渡す義務が消滅します。
この場合は、単にお互いに何もしないということで話は終わります。
2.2 商品の引渡し、お金の支払いが済んでいる場合(取引の履行があった場合)
面倒くさいのは、このケースです。未成年者(購入者)の代金を支払う義務が契約の成立時からないことになりますので、支払い済みの代金について、EC(IT取引)サイト運営者は、未成年者(購入者)に返金しなくてはならなくなります。
一方で、もちろん、未成年者(購入者)も商品をEC(IT取引)サイト運営者に返さなくてはなりません。ただし、民法は、未成年者という理由で「取消し」が認められる場合には、「現に利益を受けている限度」(民法121条但書)でよいとしてます。つまりは、開封や使用をしてしまった商品でも、そのまま返せばいいよといっているのです。
3 どんな場合も「取消し」に応じなければならないのか!?
「1」の通り、未成年者(20歳未満の人)と契約をしてしまい、その人(又は親)が取消を主張してきた場合には、その取引について「親権者が同意」していなければ、EC運営者は、原則として、契約をなかったこととしなければなりません。
しかし、民法は、一定の場合には、未成年者(20歳未満の人)であることを理由に、取消すことを認めない場合も定めています。
(制限行為能力者の詐術)
民法第21条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
この「制限行為能力者」というなにやら難しい言葉は、「未成年者」を含みます。ですので、未成年者が未成年者であると信じさせるために「詐術」を使ったときには、契約を取消すことはできないということになります。
では、この「詐術」とは、どのような場合をさすのでしょうか。
3.1 「詐術」についての裁判所の判例
「詐術」とは何か!?という点について、最高裁は「相手方に対し積極的術策を用いた場合だけでなく、一連の行動や言動から、未成年者が相手の誤信を強めた場合」といっています。
例のごとく裁判所の判例は抽象的な面があるため、EC(IT取引)において、どのような場合に「詐術」があったと評価できるのか。つまり、契約の取消しが認められなくなるのかについて、具体的に見ていきましょう。
3.2 単に申込フォームに未成年者(20歳未満の人)が入力した場合
当然の話ではありますが、この場合、未成年者(20歳未満の人)は、自分が未成年(20歳未満の人)であることを自分からいってなかったとしても、「詐術」があったとはいえません。
ですので、未成年者側から「取消し」の主張があれば、EC(IT取引)運営者はそれに応じなければなりません。
なお、「利用規約」に「未成年者の場合には法定代理人の同意が必要です」と記載があるのみでは、相手の誤信を強めたとまでは評価できず、こちらも「詐術」とは評価しがたいでしょう。
3.3 「成年ですか?」という問いに「はい」ボタンをクリックさせた場合等
この場合には、ある意味、「はい」というクリック行為をしているのですから、少なくとも「誤信を強めた」といえそうですので、「詐術」にあたるといえそうです。
しかし、EC(IT取引)の場合、真実としてどうかという問題はありますが、未成年者が取引をするために「成年ですか?」に「はい」をクリックするのは、取消を回避するための誘導されたのではないか!?という疑念からこの程度の行為では、「詐術」にはあたらないと考えられる場合が多いようです。これは、アダルトサイト等への対応という目的があるため、このように考えられ易いという裏事情があるみたいです。
3.4 「未成年者の場合には、親権者の同意が必要である」ということを申込画面上で明確に表示・警告した上で、年齢又は生年月日の入力を求めている場合
この場合、未成年者(20歳未満の人)は、親権者の同意が必要であることを認識した上で、自ら虚偽の生年月日や年齢を入力までしているのであるから、「詐術」にあたると評価してしかるべきだと考えられます。
ですので、このような場合には、未成年者(20歳未満の人)であることを理由に「取消し」を主張してきたら、法律的にも問題なく拒むことができるでしょう。
4 まとめ(具体的にどのように対応すべきか)
以上からすると、ECサイト運営者としては、「3.4」の方法を必ずとることがよいことかなとも思えます。確かに、こと未成年者の取消し対応という意味では、効果的でしょう。
ただし、これは商品の値段や内容等によっても変わってきますが、わざわざ年齢や生年月日を入れさせること(めんどくさい作業をさせること)自体でコンバージョン(売れる数)が下がるといった場合もあります(特に少額商品の場合には)。そのような場合には、あまりに未成年者(20歳未満の人)取消しの主張が多いとか、その対応ですごく時間をとられる(オペレーションコストがかかる)というようなことがなければ、戦略的に「3.4」の方法をとらないということもありだと私は思います。
高額商品の場合には、一定以上の意思決定の強さがあった上で商品を購入すると思うので、「3.4」の方法によるからといってコンバージョン(売れる数)しなくなるとは考え難いですので、「3.4」の方法をとることをお勧めします。