パロディ商品の販売も商標権侵害になる!?

 他人の登録商標を自社の商品に付して販売する行為は商標権侵害になります。そして、他人の登録商標をパロディにした商品の販売も、それが登録商標と類似している場合には、商標権侵害になります。

1 「白い恋人」vs「面白い恋人」事件

 パロディ商品の販売について、2011年に裁判になったケースがあります。「白い恋人」を製造・販売している会社が、「面白い恋人」を販売している会社を訴えたのです。

1-1 事件の概要

 「白い恋人」と言えば、北海道土産として有名なお菓子です。白色と水色を基調として「白い恋人」の文字の下にリボンの装飾が施されているパッケージで、クッキー生地でチョコレートを挟んだものです。北海道の石屋製菓という会社が製造・販売しており、「白い恋人」の文字列とパッケージデザインについて商標登録を受けています。
 ところが、大阪の吉本興業が、大阪周辺で石屋製菓の「白い恋人」のパロディ商品を販売しました。商品名は「面白い恋人」です。「面白い恋人」のパッケージは、「白い恋人」のパッケージと同様に、白色と水色を基調としており、「面白い恋人」の文字列の下には、リボンの装飾まで施されています。
 石屋製菓は、吉本興業による「面白い恋人」の販売が、「白い恋人」の文字列やパッケージデザインの商標侵害だとして、裁判を提起しました。

1-2 類似しているか

 商標権侵害の裁判では、まず、登録商標のデザインと被告の商品のデザインが類似しているかどうかが問題となります。この類似性の判断は、要するに、消費者が商品の製造・販売元を誤認するおそれがあるかどうかで判断され、商品の流通の仕方なども考慮されます。

 「白い恋人」と「面白い恋人」の文字列を比較すると、「白い」と「面白い」の文字は、確かに「白い」という部分が共通してはいますが、言葉の意味内容は全く別物であり、「白い恋人」から連想されるイメージと「面白い恋人」から連想されるイメージ(観念)は異なります。
 また、「白い恋人」は、北海道だけでなく全国に通信販売をしているため、商品の流通地域は全国であるのに対し、「面白い恋人」は、著名な吉本興業がパロディ商品として大阪周辺でのみ販売している商品です。
 そうすると、「面白い恋人」の商品が販売されているのを見た消費者としては、「これはあの有名な『白い恋人』を吉本興業がパロディ商品として販売しているものだ」と認識すると思われます。

 そのため、「面白い恋人」に接した消費者としては、「白い恋人」と「面白い恋人」の商品の製造・販売元を誤認するおそれはないと考えられ、商標の類似性は認められないという判断になりそうです(あくまで私見です)
 ただし、この類似性の判断は、あくまで登録商標とパロディ商品を比較検討してなされるものですので、「パロディ商品だから必ず類似性は否定される」ということではないので注意が必要です。

1-3 裁判はどうなったか

 石屋製菓が提起した裁判は、判決が出されることはなく、双方が譲歩して和解で終了しました。和解内容は、報道によれば、①商品が誤認混同されないようにパッケージを変更する、②「面白い恋人」の販売地域を関西限定にする、となったようです。
 結果として、吉本興業は「面白い恋人」の販売を中止することにはなりませんでした。また、損害賠償をすることにもならなかったようです。もっとも、「面白い恋人」の新しいパッケージからは文字列の下のリボンは削除されました。

 前記のとおり、「白い恋人」と「面白い恋人」には商標の類似性はないと考えられることからすれば、双方の会社に和解を勧めた裁判官の考えとしては、吉本興業の現状の販売状況は維持する方向で解決しようと考えたのではないかと思います。
 このように、裁判上の和解では、「判決になったらどっちが有利か」という観点から、和解内容もどちらに有利なものとするかが決められます。

1-4 ちなみに・・・

 なお、吉本興業の「面白い恋人」は、実はこの裁判の前に商標出願されていましたが、特許庁からは、「公序良俗に反する」(商標法4条1項7号)という理由で商標登録を拒絶されています。

2 パロディ商品が商標登録を受けられない理由

 他人の登録商標を侵害する内容で商標出願がされた場合、特許庁は、商標法3条や4条の規定に基づいて、商標出願を拒絶します。過去には、パロディ商品は商標法4条1項7号や15号に違反するとして、拒絶通知が出されたこともありますので、これから商標出願しようとする際には、以下の点に注意する必要があります。

2-1 4条1項7号違反を理由とする拒絶

 商標法では、公序良俗に反する出願は商標登録を受けられないとされています(商標法4用1項7号)。どのような場合に公序良俗に反するかについて、特許庁の審査基準では、次のようになっています。

    「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、例えば、以下(1)から(5)に該当する場合をいう。

  1. (1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
  2. (2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
  3. (3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
  4. (4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
  5. (5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。

 「面白い恋人」の出願は、特許庁では「白い恋人」の著名性にフリーライドするものであると判断され、上記審査基準の(5)に抵触するとされました。
 しかし、ここの判断は紙一重のケースが多いと思います。フリーライドすることがすべて公序良俗に反するとは言えません。実際にこのような理由で特許庁から拒絶通知が発せられた場合には、①そもそも類似性はないことのほか、②フリーライドするような出願ではないこと(著名性にただ乗りするわけではないこと)なども意見書の中で主張する必要があり、高度に専門的な対応が求められます。

2-2 4条1項15号違反を理由とする拒絶

 商標法4条1項15号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標は商標登録を受けられないと定めています。
 この点に関して、特許料から拒絶通知が出され、それに対する取消訴訟を裁判所に提起した事件で、最高裁が4条1項15号の趣旨について述べたものがあります。

最高裁平成12年7月11日判決
商標法4条1項15号の規定は、「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的にするものである」

 この判決からすると、パロディ商品に付すデザイン等は、他人の業務の商品・役務との誤認混同が生じるおそれがあるとして、商標の類似性が肯定されることになります。
 4条1項15号を理由とする拒絶通知を受けた場合も、7号の場合と同様に、フリーライドやダイリューションにはならないことを根拠を持って主張する必要があるため、意見書の内容が高度に専門的になります。

3 まとめ

 パロディ商品の製造・販売は、高い売上見込みが立つ点で事業者にとっては魅力的ですが、一方で、商標権侵害のリスクがつきまといます。そのため、パロディ商品を販売する場合、あるいは、パロディ商品と受け止められてしまうかもしれない商品を販売する場合には、専門家のアドバイスを受ける方が、法的リスクの減少につながり安心です。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

運営者情報

お気軽にお問い合わせ下さい

ページ上部へ戻る