権利侵害警告書の送付は脅迫罪になってしまうのか

 著作権や商標権などの知的財産権を侵害された場合、基本的には侵害者に対して警告書を送付して交渉を行うことになります。ですが、警告書の内容や交渉の方法に問題があると、その警告書の送付等が刑法上の脅迫罪に該当したり、民事上の損害賠償責任を負ったりする可能性があります。今回は、侵害者に対する警告や請求が脅迫罪に該当するかについて、解説します。

1 脅迫罪とは

 刑法で定められている脅迫罪は、どのような場合に成立するのでしょうか。また、解釈や運用はどのようになっているのでしょうか。

1-1 脅迫罪の要件

 刑法では、以下の場合に脅迫罪が成立するとされています。

(脅迫)
第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加えると告知すると、告知を受けた人は、畏怖(※怖がること)します。そこで、刑法は、人を畏怖させるような行為を脅迫罪としているのです。つまり、脅迫罪は、人の意思決定の自由を守ることを目的としていると解されています(この守ろうとしているものを「保護法益」といいます。)。

1-2 法人に対しても脅迫罪は成立するか

 前記のとおり、脅迫罪の保護法益は人の意思決定の自由ですので、会社などの法人に対する脅迫罪は成立しないことになります。
 ただし、法人の代表者や現実に告知を受けた担当者に対する脅迫罪は、成立する可能性があります。

2 「害を加える旨」の告知とは

 脅迫罪が成立するかどうかについては、「害を加える旨」の要件を満たすかどうかが決めてです。その前提として、どういう場合に「害を加える旨」の告知に該当するかの解釈が重要です。

2-1 どのような内容の告知が違法なのか?

 脅迫罪の保護法益が人の意思決定の自由にありますので、人の意思決定の自由を侵害するような害悪の告知が脅迫罪に該当することになります。
 また、告知する害悪の対象は、人の「生命、身体、自由、名誉又は財産」に限定されています。判例上も、これら以外のものに害を加える旨の告知をした場合に脅迫罪の成立を認めた例はほとんどありません。
 さらに、告知する方法に限定はなく、対面での口頭、手紙などの文書、電話など、あらゆる方法が含まれます。日本刀を突き付けるなどの行動や態度でも、脅迫罪は成立する可能性があります。

2-2 正当な権利行使の場合でも脅迫罪は成立するのか?

 例えば、犯罪の被害者が犯罪を受けたことを告訴すると犯罪者に告げることや、個人が脱税していると告発すると告げることは、脅迫罪に該当するのでしょうか。

 この点、適法な権利行使や告発などの場合には、「害を加える旨」の告知ではないから、違法性はないとして脅迫罪の成立を否定する見解もあります。
 ですが、判例は、真実権利を行使する意思がなく、相手を畏怖させる目的であるときには、脅迫罪が成立するとしています(大審院大正3年12月1日判決)。

 なお、真実権利を行使する意思がないかどうか、相手を畏怖させる目的があるかどうかについては、客観的な事情から判断されることになります。例えば、著作権侵害者に対して書面で警告書を送付する場合には、真に著作権者か、著作権侵害は生じているのか、書面の内容及び文面などの事情が考慮されると考えられます。

3 民事の方では?

 フリージャーナリスト(原告)が新聞社やその担当者(被告ら)に対して、新聞社の担当者Aから原告に対して「催告書」が送付されたことが脅迫になるとして、損害賠償請求をした事案です。
 経緯が複雑なのですが、簡略化して説明すると、第三者と新聞社との間の法的トラブルに関して新聞社の担当者Aから第三者に送られた「回答書」を原告が入手し、それを自身のウェブサイトに掲載しました。そして、その掲載行為は、担当者Aの「回答書」についての著作権を侵害するとして、担当者Aが原告に対してウェブサイトからの削除を求める「催告書」を送付しました。最終的に、その「催告書」の送付行為が脅迫に当たるとして、原告が担当者Aなどを訴えました。
 担当者Aからの催告書の文面には、「貴殿が、この回答書を上記サイトにアップしてその内容を公表したことは、私が上記回答書について有する公表権を侵害する行為であり、民事上も刑事上も違法な行為です。」、「貴殿に対し、本書面到達日3日以内に上記記事から私の回答を削除するよう催告します。貴殿がこの催告に従わない場合は、相応の法的手段を採ることとなりますので、この旨を付言します。」などが記載されていたようです。

 原告は、「回答書」の著作権は担当者Aにはなく、代理人の弁護士か新聞社が著作者であるから、Aは自身に権利がないのに「催告書」を送付し、ウェブサイトからの削除に応じない場合には刑事告訴をすると告知したため、脅迫罪が成立すると主張しました。
 これに対して、裁判所は、「当該行為が脅迫といえるか否かの判断においては、正当な権利行使であるか否かにかかわらず、告知された害悪が畏怖心を生じせしめるに足る内容・態様であるかが問題なのであって、本件回答書の著作物性の判断が不可欠であるとはいえない」としました。
 そして、催告書の文面の「内容及び表現も、催告書一般にみられるものであり、特段受領した者が畏怖するに値しないものである。」として、本件催告書の送付は脅迫にはならないと判断しました(福岡高裁平成25年3月15日判決)。

4 まとめ

 著作権侵害を受けた場合、侵害者に対して警告書を送付することは、通常の文面を用いれば脅迫になるおそれは低いといえます。上記の裁判例でも、一般的に用いられる内容及び文面での催告書であるから、脅迫にはならないと判断しています。
 もっとも、脅迫罪の成立には様々な事情が考慮されて判断されますので、何回も送付するなど他の事情によっては脅迫に該当してしまうため、要注意です。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士萩谷真樹

担当者プロフィール

企業法務の中でも、特に知的財産権分野を得意としている。同法人のIT・EC事業に特化している弁護士とともに、知的財産権分野という専門性の高い領域で、お客様へのサービス提供を行っている。

ピクト法律事務所

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