有給休暇の「給」って何!?~実は細かい有給と賃金の話~

さて、今年の労働基準法改正により、IT事業者の皆さんは、労働者に対して、最低でも5日間有給休暇を取得させる義務を負いました。

有「給」休暇という名前の通り、有給休暇を取得した日について、事業者の皆さんは労働者に給料(賃金)を支払う必要があります。

「有給の日は欠勤じゃなくて働いた扱いにすればいいんじゃないの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。

その考えで間違いはないのですが、他にも方法があることをご存知ですか?

今回は、有給休暇に関する賃金支払いについて、労働時間との関係にも触れつつ解説していきます。

平成31年改正法も含む有給休暇制度についての解説は、以下の記事をご覧になってください。

1 有給休暇の賃金計算

有給休暇を取得した日の給料については、労働基準法39条9項に定められています。

労働基準法39条9項前段
使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇の期間又は第4項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。

1-1 3つの計算方法

有給休暇取得時に支払われるべき賃金は、以下の3つの方法のいずれかによって決まります。(労基法39条9項、同法規則25条3項)

  1. ・平均賃金
  2. ・所定労働時間労働した場合の通常の賃金
  3. ・健康保険の標準報酬日額

これらの3つの方法は、計算結果に違いが生じるもので、一長一短があります。

しかし、これらの方法を場合によって、事業者側で使い分けることはできません。(昭和27年9月20日 基発第675号)

あらかじめ、就業規則などに、どの方法によって計算するかを定めておく必要があります。

1-2 具体的な計算

それぞれの方法の具体的な考え方は以下のようになります。

平均賃金

「平均賃金」については、法律上、その計算方法が決まっています(労基法12条本文)。

有給取得における「平均賃金」の計算においては、有給取得日より過去3か月分の賃金総額を過去3か月の総日数(休日含む)で割った金額のことをいいます。

支払った賃金の総額なので、残業代や各種手当も含みます

そのため、毎回計算のたびに結果が異なるので、有給取得のたびに計算しなおすことになります。

具体例を出すのは難しいですが、月給額23万円の場合、令和元年8月に有給取得したときの「平均賃金」は、最低でも7500円/日
計算式としては、(23万円×3か月)÷(31日+30日+31日)=「平均賃金」となります。

そして残業代などの手当てのおよそ90分の1がこれに加えられることになります。
各月平均して8万円弱の支払いがあれば、「平均賃金」が1万円近くになります。

なお、時給・日給・出来高払いなどの場合は、過去3か月の賃金総額を過去3か月の労働日数で割った金額の60%が最低保証額となっています。(労基法12条但書)

所定労働時間労働した場合の通常の賃金

この「通常の賃金」の計算式も、法律の定めがあり、以下の通りとなります。(労基法規則25条)

時給 時給額×有給取得日の所定労働時間
日給 当該日給額
月給 月給額÷有給取得月の所定労働日数

この計算方法では、残業代などは含まないので、金額の計算は容易です。

またいわゆる月給日給制をとっている場合には、有給取得により欠勤した分がそのままこの計算によって補われることになります。

そのため、就業規則などには、「賃金計算上欠勤として扱わない」などと記載することで足りるとされています。

具体的には、月末締めの月給額23万円の場合、令和元年8月に有給取得したときの「通常の賃金」は、約10454円/日となります。

健康保険の標準報酬日額

健康保険における標準報酬日額は、直近12カ月の平均標準報酬月額を30で割った金額となります。(健康保険法99条2項参照)

そして、標準報酬月額は、月給額(各種手当含む)をその月の総日数で割って、30倍した額を基礎に決定します。(同法42条1項、40条1項)

具体的には、直近1年間で毎月30万円の賃金支払いがあった場合、標準報酬月額は各月30万円であり、標準報酬日額は、10000円となります。

2 労働時間との関係

有給休暇を取得した場合、労働時間との関係はどのようになるのでしょうか。

2-1 原則的な考え(ノーワークノーペイ)

原則、賃金は、労働に対して支払われるものですので、遅刻や欠勤など、労働をしていない場合にはその分賃金から控除されます。

有給休暇は、その名の通り、休暇ですので、この原則に従えば、その分を賃金から控除することに全く問題ありません。

もっとも、有「給」である以上、有給休暇取得日にも賃金が支払われるべきであるとして、先ほど説明した金額が支払われ、一定の穴埋めがされることになるのです。

計算方法によっては、賃金控除額と有給手当額が同じではないので、完全に一致せず、結果的に減額となることもあります

2-2 時間外労働規制との関係

繰り返しになりますが、有給休暇は、その名の通り、休暇ですので、労働はしていません。

すると、実労働時間を前提とした時間外労働規制において、有給休暇取得日について考慮する必要はないのです。

例えば、所定労働時間が8時間のところ、月曜日に有休をとり、火曜から土曜まで毎日8時間労働したとします。

実労働時間は40時間であり、法律上は、時間外労働は発生していません

また、午前中だけ有休をとり、午後から出勤し所定就業時間を超えて労働しても、実労働時間が8時間であれば、法律上の時間外労働ではないことになります。

しかし、先ほど申し上げたように、有給手当の計算において、「通常の賃金」とし、月給日給制を採用した場合、所定労働時間働いたものとして数えていることがあります。

もちろん就業規則や労働契約においては、そのような扱いは労働者に有利なので、法的な問題はありません。

この規定を一方的に変更し、所定労働時間と数えないことにすることは、労働者にとって不利益変更なので許されないことに注意してください。

2-3 本来の計算式

有給休暇を取得した場合の本来の賃金計算式は以下の各金額を足したものです。

  1. ①月給額につき、有給で休んだ日数分を欠勤控除した額
  2. ②有給手当
  3. ③時間外労働他各種割増賃金

このうちの①と②が、同額であるような計算をした場合が多いため、有給休暇はその日の所定労働時間分を働いたものとする考え方が生まれたのだと思います。

所定外労働に対する割増賃金と同様、労働者にとっては有利な扱いですので、何も問題はありませんが、理論上はこうだという話です。

ただし、法改正で有給取得が会社に義務付けられたので、会社側としても、有給が消化されていることを把握する上で、会計処理などに上記の方法を細かく記載することも考えられると思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

有給休暇の「給」には、意外や意外、こんな裏があったんですね。

実務上の取扱いにあまり影響する話ではありませんが、ぜひ知っておいてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士飯岡謙太

担当者プロフィール

IT事業者の皆様は、一般的な取引トラブルに限らず、IT事業であるからこその特別の法的問題に直面することがあります。また、一口にEC・プラットフォームサイト運営といっても、インターネットを利用するが故に、実店舗販売とは異なる様々な規制に配慮する必要があります。これらの法的問題について、最善の予防策や、トラブルに対する適切なアドバイスをご提供いたします。


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