改正労働法がついに残業時間を規制!~IT事業者がすべき対策と手続~

ついに!
2019年4月1日、改正労働法の施行により、いままでは、実質無制限だった時間外労働に対して、法律上の制限が加わりました。
(今までなかったことに、私も驚愕しています)

近年、長時間残業による過労死の問題が大きくニュースで取り上げられていたところ、ようやく法律の規制が入ったことになります。

今回は、改正された時間外労働規制をご説明するとともに、いわゆる36協定についても解説していきます。

労働基準法改正のほかの内容についても以下の記事で解説しておりますので、こちらも参考にしてください。

1 改正労働法における時間外労働規制

実は、法律上、時間外労働は原則禁止です。

この後説明する「36協定」(労働者と会社の合意)がされると、残業や休日出勤させることができるようになります。

残業がデフォルトになっている事業者様は、まず、この認識を確認してください。

では、時間外労働について、労働基準法がどのように規制をかけているのか、順にみていきましょう。

1-1 法定労働時間と法定休日

法律上の労働時間及び休日に関する原則は、以下の通りです(労働基準法32条、35条)。

  1. ・労働時間
  2. 1日8時間以内
  3. 1週40時間以内
  4. ・休日
  5. 毎週少なくとも1日

繰り返しですが、これを超えて働かせたり、休日を与えなかったりすることは、「36協定」がない限り、本来は違法です。

1-2 法律上の上限規制(原則)

「36協定」があるからといって、いくらでも残業させられるというわけではありません。

今回の法改正の一番のポイントは、冒頭にも書いたとおり、法定時間外労働時間・休日労働に法律上の上限が付されたことにあります。

時間外労働の上限

時間外労働(休日労働は含まない)は、臨時的な特別の事情がない限り、原則として、
1か月あたり45時間以内
1年当たり360時間以内
が上限となりました。(労働基準法36条3項・4項)

この原則的制限について、(休日労働は含まない)という点に注意が必要です。

休日労働というと、土日祝日出勤をイメージされるかと思いますが、労基法上の休日はそれと直結するものではないのです。

あくまでも週1日の休日が法定休日であり、その「法定休日」に出勤させることが「休日労働」と扱われます。

仮に、IT事業者の皆さんが、「所定休日」として、土日と祝日を休みとしていても、法定休日は1日です。

そのため、日曜を法定休日として扱う場合には、土曜日の出勤は、休日労働ではなく、時間外労働として管理されることになります。
祝日の場合も同様です。

月曜が祝日の三連休で、3日とも労働者に労働をさせた場合、日曜のみ、休日労働として管理し、土曜と祝日である月曜は、時間外労働として管理されることになります。

今回の改正等の関係でいうと、土曜と祝日の出勤は、1か月あたり45時間・1年当たり360時間の制限にカウントされなければならないということです。

ここを勘違いしていると、いつの間にか上限を超えてしまうおそれがあるので、注意してください。

休日労働と時間外労働を合わせた場合の上限

「じゃあ、休日に働いてもらえばいいんだな!」というと、一概にそうも言いきれないのは、次のような規制もあるからです。

  1. 時間外労働と休日労働を合わせて、1か月あたり100時間「未満」(労基法36条6項2号)
  2. 時間外労働と休日労働を合わせた時間について、直近の過去2ヵ月、3か月、4か月、5か月、6か月の各平均が、すべて80時間「以内」(同項3号)

時間外労働が44時間でも、休日労働が56時間以上であれば、合計100時間以上となり、こちらの規制により違法となります。

またその合計が毎月100時間未満に収まったとしても、直近月の各平均が、80時間超であれば、やはり違法となります。

この部分は、「未満」と「以内」が区別されているので、注意してください。

1-3 法律上の上限規制(例外)

「1か月45時間じゃ、仕事が回らないよ!」
「繁忙期は残業してでも仕事しないといけないときだってあるんだ!」
という怨嗟の声が聞こえてきました。

安心してください(?)。
労働基準法は、「臨時的な特別の事情」がある場合にのみ、上記制限を少しだけ緩和しています。

臨時的な特別の事情がある場合には、以下の制限がかかることになります。

  1. ①1か月あたり45時間までという原則的制限を超えて時間外労働ができるのは、1年当たり6カ月以内
  2. ②時間外労働(休日労働を含まない)が、1年で720時間以内
  3. ③時間外労働と休日労働を合わせて、1か月あたり100時間未満
  4. ④時間外労働と休日労働を合わせた時間について、直近の過去2ヵ月の平均、3か月の平均、4か月の平均、5か月の平均、6か月の平均が、すべて80時間以内

③と④は、先ほど説明した法律上の上限規制の原則にもあった内容ですが、この例外的な場合にこそ真価を発揮する規定です。

ひと月当たりの労働日が、20日程度だとしても、1日当たり5時間残業しただけで、この規制に違反することになります。

よくよく気を付けてください。

また厳密には、この規定に引っかかるものではないかもしれませんが、以下のような運用も避けた方がいいでしょう。

4月の第3週・第4週にだけ時間外労働80時間をし、5月の第1週第2週にも時間外労働80時間をした。

この場合、各月ごとに判断すれば、いずれも100時間未満であり、かつ、この2か月の平均も80時間以内であるため、違法ではありません。

しかし、実質的な1か月の間に、160時間の時間外労働をしているという点で、労基法の趣旨と相反するものです。

1か月という区切りを恣意的に操作してよいのかという問題もありますが、実質的に法の規制に違反しているといいうる事態であることは間違いないと思われます。

何も自分から危ない橋を渡りに行く必要はありません。
黒に近い灰色には、足を踏み入れないほうがいいでしょう。

1-4 労働時間の客観的把握義務

これらの規制は、IT事業者の皆さんが、労働時間をしっかりと管理することが前提です。

何ら管理することなく、なぁなぁにされてしまえば、規制が形骸化してしまうことは、これまでの法規制がなかった時代と変わりありません。

そこで、事業者に対して、労働者の労働時間を客観的に把握する義務が課されることになりました(労働安全衛生法66条8の3)。

その方法としては、タイムカードによる記録、パソコン等の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法によって管理されるべきと定められています。
(労働安全衛生法規則52条の7の3第1項)

さらにこれらの記録を3年間保存することも義務付けられています。(同条第2項)

2 いわゆる36協定の作成と届出

さて、これまでご説明してきた時間外労働時間規制ですが、「36協定」というものの合意及び届出が前提となっています。

ちなみに労働基準法「36条」が、時間外労働・休日労働に関して規定し、そこで、労働者と会社との間の協定を求めていることから、「36協定」と呼ばれるようになりました。

2-1 「36協定」に定めるべき内容

改正労働基準法において、36協定に定める内容は、以下の通りです。

【原則的な場合】

  1. ・労働時間延長・休日労働をさせることができる場合
  2. ・労働時間延長・休日労働をさせることができる労働者の範囲
  3. ・協定の有効期間
  4. ・ 協定期間における「1日」「1か月」「1年」について、労働時間を延長できる時間・労働させることができる休日
  5. ・時間外労働時間+休日労働時間の合計が月100時間、2~6か月平均80時間以内の条件を満たすこと

【臨時的な特別の事情がある場合】

上記の原則で記載する事項に加えて、以下の内容も記載が必要です。

  1. ・限度時間を超えて労働させる必要がある場合の、一月の時間外労働時間+休日労働時間の合計時間及び1年の時間外労働時間
  2. ・限度時間を超えることができる月数
  3. ・限度時間を超えて労働させることができる場合
  4. ・限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置
  5. ・限度時間を超えた労働にかかる割増賃金
  6. ・限度時間を超えて労働させる場合の手続き

限度時間を超えて労働させることができる場合については、できる限り具体的に記載しなければなりません。

「業務上やむを得ない場合」など、抽象的な設定をして、いつでも限度時間を超えた労働をさせられるような内容になっていることは認められません。

厚労省の解説によれば、「予算・決算業務」「納期のひっ迫」など、具体的に記載すべきとのことです。

2-2 労働基準監督署への届け出

上記の36協定書を、労働基準監督署長に提出して初めて、時間外労働をさせることが可能になります。

また、臨時的な特別の事情がある場合の限度時間を超える労働についても同様に、36協定書の提出が必須です。

これがされていない場合は、法律の基準を遵守していても、形式上は違法です。

またそうでなくても、このような労働者との合意協定書がないのに残業等させれば、後々の争いの火種になりかねません。

2-3 参考情報

36協定の参考様式は以下のサイトからダウンロードできます。
東京労働局・新36協定(平成31年4月以降)(中小企業は2020年4月以降)

また書面の作成支援を下記サイトでしてくれるようです。
厚生労働省・作成支援ツール(36協定届、1年単位の変形労働時間制に関する書面)について

3 安全配慮義務との関係

さて、残業が1か月あたり100時間・月平均80時間と聞いて、思い当たるところがありませんか。

いわゆる過労死のラインとして、1か月あたり100時間以上の残業や発症前2~6ヵ月の平均80時間以上の残業が挙げられていますね。

今回の改正により、これらの過労死ラインが上限として定められたということになります。


では、残業時間が80時間以内だから、過労死じゃなくなるのか。
会社側は安全配慮義務違反を問われないのか。

決してそんなことはないということを肝に銘じてください。

過労死ラインは、あくまで判断基準の一つであり、それを超えたかどうかが判断の分かれ目となるものではありません。

労働時間が長ければ長いほど、長時間労働が続けば続くほど、労働者の心身に何らかの影響が出てくることは自明です。

他の要因と相まって、労災認定がされる可能性はいくらでも考えられるのです。

また、会社側は長時間労働の有無にかかわらず、安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

過労死ラインを超えない時間外労働であっても、
安全配慮義務違反を問われる可能性は十分考えられます。

上限規制に反しないようにすればそれでいいという問題ではありません。

社内の労働環境を整備して、悲惨な事件が起きないようにゆめゆめ気を付けてください。

まとめ

今回改正された時間外労働規制について、中小企業は、その施行が来年(2020年)の4月1日となっています。

IT事業者の皆さんは、中小企業の方が多いかと思いますので、規制自体は来年からかとは思います。

しかし、来年の4月から規制だからといって、今年はなにもしなくていいのかといったら、そんなことはありません。

備えあれば患いなし。

来るべき日に備え、今からでも少しずつ対応を始めておけば、来年が楽になりますよ。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士飯岡謙太

担当者プロフィール

IT事業者の皆様は、一般的な取引トラブルに限らず、IT事業であるからこその特別の法的問題に直面することがあります。また、一口にEC・プラットフォームサイト運営といっても、インターネットを利用するが故に、実店舗販売とは異なる様々な規制に配慮する必要があります。これらの法的問題について、最善の予防策や、トラブルに対する適切なアドバイスをご提供いたします。


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