事業者の方は、自社の商品を販売するためにウェブサイトを開設したとき、そのウェブサイトが他人の商標権を侵害していないか、確認をしていますか。
実は、ウェブサイトを開設する際に他人の商標を使用すると、商標権侵害が成立し、商標である文字列などをホームページから削除するよう請求されたり、損害賠償請求を受けたりする可能性があります。
今回は、ウェブサイトの開設の際に、商標権侵害が成立しないように注意するべき点を解説します。
目次
1 ウェブサイトの開設に商標権侵害が成立する理由
ウェブサイトのドメイン名やメタタグ・タイトルタグを設定する時にも、他人の登録商標をそれらの中に含めると、商標権侵害が成立します。
一般に、商標権侵害が成立するためには、他人の商品や役務(サービス)の出所の誤認混同を生じるおそれがあること(出所識別機能の侵害)が重要です。
そして、ドメイン名やメタタグについて商標権侵害の根拠となる条文は、商標法2条3項8号です。
商標法2条3項8号
商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
通常、ウェブサイトでは商品の紹介や広告、通販価格などの説明を行っており、かつ、それらの行為をインターネット回線を通じて行っているからです。
2 ドメイン名と商標権侵害
ドメイン名は、ユーザーが商品を購入しようとする際に、誰がこの商品を販売しているのか等を確認するために参考にされるものです。そのため、他人の登録商標を自社のドメイン名に使用する行為は、商標権侵害が成立する可能性がある行為なのです。
2-1 ドメインの取得の際に注意するべき点
事業者の方は、やはり自社の商品やサービスの名称でドメインを取得したいと考えることが多いと思います。そのため、自社の商品やサービスの名称で他人がドメインを取得していないかは、事前にかなり調査して、誰にもドメインを取得されていないことを確認してから取得します。
ですが、取得しようとしているドメイン名が他人にすでに使われているドメインかどうかだけではなく、そのドメイン名で他人が商標登録をしていないかも確認しなければ、せっかく理想のドメイン名を取得しても、実は他人の商標権を侵害するようなドメイン名だったなどの事態が生じる可能性があるのです。
2-2 ドメインの使用が商標権侵害になった場合
ドメインの使用が他人の商標権を侵害するとして、商標権者からドメインの使用を差し止めるよう請求されることがあります。
請求を受けた者としては、そのドメインが商標登録されていること、商標権侵害の要件を充足していることを確認できた場合には、任意にドメインの使用を中止したり、商標権者に損害賠償を行うなどして、対応する必要があります。
もし差止請求を無視していると、ドメインの使用を請求する裁判を提起されたり、日本知的財産仲裁センターに仲裁申立がされるおそれがあります。過去には、仲裁センターで、「当該ドメインを登録者(侵害者)から申立人(商標権者)に移転せよ」という仲裁が出たこともあります。
3 メタタグ・タイトルタグと商標権侵害
インターネットサイトでメタタグやタイトルタグを使用する行為も、商標権侵害が成立する可能性があります。サイトを開設する際には、タグにも気をつけなければなりません。
3-1 目に見えないメタタグでも本当に商標権侵害になるのか?
メタタグは、通常のユーザーからは目に見えないものです。この場合でも、他人の商品や役務の出所の識別機能を害するとして、商標権侵害が成立するのでしょうか。
この点について、確かにメタタグは通常のユーザーからはすぐには見えないことから、他人の登録商標をメタタグに使用しても、そのウェブサイトで販売している商品が誰の商品なのかという点について誤認混同は生じないとも考えられます。
ですが、メタタグは、一定の作業をすることで、誰でも確認することができるものです。
また、ウェブサイトの検索結果に反映されるものですので、商品や役務の出所の識別機能を害していると評価できます。
そのため、メタタグに他人の登録商標を使用する行為にも、商標権侵害が成立する可能性があります。
3-2 タグ設定の際の注意点
事業者の方は、インターネットの検索サイトで自社のホームページが上位に表示されるように、メタタグやタイトルタグにキーワードを多く含ませることが多いと思います。もっとも、最近は過剰なSEO対策が問題視されたこともあり、メタタグなどにキーワードを多く含ませるだけではあまり効果的ではなくなったとも言われています。
前述のとおり、メタタグやタイトルタグに他人の登録商標を入れることは、商標権侵害が成立する可能性がある行為です。そのため、タグを設定する際には、そこに含まれるキーワードが他人の登録商標でないかも事前に確認する必要があります。
3-3 IKEA事件
家具等の販売業を行うIKEAは、自社では通販を行っていません。そこで、多数の買物代行業者が、IKEAの商品について顧客からリクエストを受け、商品の購入を代行する事業を行っています。この事件は、業者のウェブサイトにIKEAの商品の写真や情報を掲載したり、ウェブサイトのメタタグなどに「IKEA」などの文字列を無断で使用したりしていた業者に対して、IKEAがメタタグの削除等の請求を裁判所に求めたものです。
原告(IKEA)は、被告の買物代行業者に対して、メタタグに登録商標である「IKEA」という文字列を含ませる行為は、原告の商標権を侵害すると主張しました。
これに対して、被告の業者は、①メタタグは通常は目に見えないから商品等の出所識別機能を侵害しないと反論しました。
また、②ウェブサイト内に「『イケア』、『IKEA』など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります」と掲載していたことから、正当な引用であって商標権侵害にはならないと反論しました。
ですが、東京地方裁判所平成27年1月29日判決では、①については、目に見えなくても検索結果に表示される以上、商標権侵害は成立する、②については、そのような注意書きがあっても、それはメタタグやタイトルタグと一緒になって記載されているものではないから、正当な行為とはいえないと判断し、結果的に商標権侵害を認めました。
4 商標権侵害にならないように
上記のとおり、ウェブサイトを開設するときには、他人の商標権を侵害しないように注意するべき点がいくつもあります。
これらの商標権侵害を回避するためには、ドメイン名に自社の商品やサービスの名称を使用するときに、まず商品やサービスについて自ら商標登録をしておくことが重要です。これにより、自社のウェブサイトが他人の商標権を侵害しないようにできるようになる上、他人のウェブサイトが自社の商標権を侵害している場合に、差止請求をすることができようにもなります。
5 まとめ
今回は、ウェブサイトを開設するときに、他人の商標権を侵害することがあると開設しました。
ウェブサイトには、商標権の問題だけでなく、著作権の問題も多いため、他人の権利の侵害が生じやすい場面です。
事業者の方は、すでに開設してある自社のウェブサイトが他人の商標権や著作権を侵害していないかを再確認するべきであり、また、これから開設しようとするときも、事前に商標権などの侵害にならないよう注意する必要があるのです。