スタートアップなど新規事業の適法性を確認するグレーゾーン解消制度
- 公開日:2017/9/7 最終更新日:2021/01/01
- スタートアップ
シェアリングエコノミーに代表されるように、ウェブを利用したサービスでは、従来になかったサービスが多く存在し、必然的に現行の規制が適用されるかどうかが不明確な部分が残ってしまいます。このような「グレー」な部分が残った状態では、安心して事業を始めることができません。
このような不安を払しょくしてくれる制度が、「グレーゾーン解消制度」です。この制度は、使いようによっては、事業者にとって非常に有用なものとなります。
今回は、グレーゾーン解消制度の概要、特徴、利用にあたっての注意点などを説明していきます。
目次
1 グレーゾーン解消制度の概要と活用例
以下では、グレーゾーン解消制度の概要を示したうえで、その内容のイメージをつかんでもらうため、その活用例をご紹介します。
1.1 グレーゾーン解消制度の概要
グレーゾーン解消制度とは、産業競争力強化法第9条に基づく制度です。ざっくり言うと、
事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合において、安心して新事業活動を行うことができるよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の有無を行政庁に確認できる制度になります。
シェアリングエコノミーに関する事業には、従来行わなれていなかった新規の事業内容を含むものが多く、現行の規制が適用されるかどうか不明確な「グレー」なものが多く存在します。
グレーゾーン解消制度は、この「グレー」な部分に規制が適用されるかどうかについて行政側がその見解を示してくれるもので、非常に有用な制度といえます。
1.2 グレーゾーン解消制度の活用例
平成29年6月現在において、実際に申請がなされた件数は104件です(経済産業省が申請を受理したものに限る)。ご参考のため、その一例をご紹介します。
- 「中長距離相乗りマッチングサービスに関する規制」
- (照会内容)
- (回答)
・「自動車で中長距離を移動するドライバー」と、「同区間の移動を希望する人」をマッチングするサービス
・ドライバーがガソリン代および道路通行料を受領してユーザーを同乗させる
・道路運送法第2条第3項に規定する「旅客自動車運送事業」に該当するか否か
ドライバーがユーザーから収受する費用については、運送のために生じるガソリン代及び道路通行料の範囲内での金銭の収受であることから、本サービスは旅客自動車運送事業に該当せず、道路運送法上の許可又は登録を要しない。
実際に経済産業省により公表されている回答は以下です。
2 グレーゾーン解消制度の特徴
グレーゾーン解消制度の特徴としては、以下が挙げられます。
- ① 個別の事業計画について、事業を規制する省庁から規制の適用の有無に関する回答が得られる。
- ② 対象法令に制限はなく、あらゆる法令について、その適用の確認を求めることができる。
- ③ 原則として、1ヶ月以内の回答が得られる(1ヶ月以内に回答できない場合には、回答できない理由について1ヶ月ごとに通知される)。
①について言うと、個別の事業内容に関する規制の適用の有無が明確にできることから、安心して事業を始めることができるという点が大きなメリットであり、この制度の最大の特徴です。
ただ、その反面、明確にNGと言われてしまうこともありますので、グレーな部分を残しながら事業を始めた方がよいのかどうか悩ましいところはあると思います。
3 グレーーゾーン解消制度の手続と利用の際の注意点
グレーゾーン解消制度では、事業計画を明確にした上で照会を求める申請書を提出し、これに対して行政から回答を得るという流れになりますが、以下では、その申請書の記載内容や、利用に際しての注意点を見ていきます。
3.1 照会を求める申請書類の記載事項
- ①新事業活動及びこれに関連する事業活動の目標
- ②新事業活動及びこれに関連する事業活動の内容
- ③新事業活動及びこれに関連する事業活動の実施時期
- ④解釈及び適用の有無の確認を求める法令等の条項
- ⑤具体的な確認事項
・事業目標の要約
・生産性の向上又は新たな需要の獲得の見込み
・事業概要
・事業実施主体
・新事業計画を実施する場所
・その他
3.2 利用の際の注意点
「④解釈及び適用の有無の確認を求める法令等の条項」の項目では、確認を求める対象について、
など、具体的に指摘しなくてはなりません。
また、「⑤具体的な確認事項」では、
- ・現在規制の根拠となる法令がどのような規定となっているか
- ・そのうち、どの部分の解釈が明らかでないのか
- ・新事業活動が規制の対象となるのか否かが判断できないポイント
- ・それによって新事業活動を行うことが難しい理由
- ・そのことに関する自己の見解
などを記載することが求められています。
グレーゾーン解消制度では、事業について、あらゆる法令の規制について確認してくれるわけではなく、確認を求める側で確認を求める法令の条項やそのポイントを具体的に特定した上で、照会をしなければなりません。そうしなければ、行政から、効果的な回答を得ることはできませんので、ご注意ください。
中小企業では、新規事業に適用される可能性のある法令を特定し、このようなポイントを絞った照会を行うことはなかなか難しいと思われますので、弁護士を活用して問題となる条項を洗い出し、特定することが有用です。
5 まとめ
シェアリングエコノミーなどウェブを利用した新規のサービスを始めるにあたっては、法令の規制が適用されるのかどうかについて、どうしてもグレーな部分が残ってしまいがちです。そのような場合には、グレーゾーン解消制度を活用して、行政に照会をかけることで、明確な回答を得ることができ、安心して新規事業を始めることができます。
その際には、照会をかける事業者の側で、問題となる具体的な法令の条項や問題となるポイントを特定した上、照会をかけることが必要になりますので、弁護士を活用して、この点を整理することが有用です。
新規事業を検討されている事業者は、ぜひグレーゾーン解消制度を活用して、適正なサービスを行ってください。