契約が自動的に継続・更新される条項は無効?〜改正消費者契約法10条〜

 ウェブ上でクラウドサービスを提供する契約や、雑誌やサプリメントなどを一定期間継続的に購入する定期購入契約では、契約期間満了時にユーザーからの解約の申し出がないと、さらに契約期間が延長されるという、いわゆる自動更新条項がつけられていることが多いと思います。
 このような自動更新条項が、平成29年6月3日から改正された消費者契約法第10条に反して無効となる場合があります。
 今回は、どのような場合に自動更新条項が無効となりうるのか、無効とならないためにはどのようにすればよいのか(対策)をご紹介したいと思います。

1 消費者契約法第10条の条文と要件

 まずは、条文を見てみましょう。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 消費者契約法10条では、以下の両方にあたる場合に、その契約条項が無効になるものとしています。

  1. ①法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項
  2. ②民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するもの

以下では、自動更新条項が、要件①・②に当たるかどうかを見ていきます。

2 要件①~権利の制限・義務の加重~

消費者契約法10条を見ると、要件①にあたる契約条項の例として

「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」

が挙げられています。そして、自動更新条項は、この例示された条項の典型例といえます。

 なぜなら、自動更新条項は、解約の申し出をしないという「不作為」(何もしないこと)をもって、新たに契約の申込みをしたものとみなして、新たな契約を成立させる規定であるため、①の例示条項にあたるわけです。

3 要件②~消費者の利益を一方的に害する条項~

 上記のように、自動更新条項は要件①にあたることになりますが、自動更新条項がすべてダメというわけではなく、その中でも②の要件にあたるかどうかが、無効となるかどうかの分岐点となります。
 それでは、要件②について見てみましょう。

3.1 一般論

 要件②の中で挙げられている民法第1条2項は「信義則」といわれるもので、ざっくり言うと、契約条項の内容がユーザーにとって不当に不利になる場合には、信義則に反するということになります。

信義則に反するかどうかは、

最高裁判決平成23年7月15日
消費者契約法の趣旨・目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯
消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである

とされています。

 以下では、どのような自動更新条項が無効になりうるのかを見ていきます。

3.2 通常の自動更新条項の場合

 まずは、1年間のクラウドサービスを提供する契約や雑誌・サプリメントなどの定期購入契約で、契約満了までに解約の申し出を行わなかった場合に、また自動的に1年間、同じ条件で契約が更新されるという自動更新条項について見てみましょう。

 このような条項は、ユーザーからすると、たしかに何の申し込みもなく、新たに1年間の契約を結ばされることになるため、不利益がないとはいえません。
 もっとも、ここで締結される新たな契約というのは、当初からユーザーが利用していたクラウドサービスであったり、雑誌・サプリメントの定期購入契約と同内容の契約で、さらにこれを1年間延長するというものです。ユーザーとしては、もともと同じ条件で利用していたのですから、さらに継続してこれを利用することになっても、ユーザーにとっての不利益はそれほど大きくはありません。また、契約更新をするという面倒な手続きを省くことができるという意味では、ユーザーにとって便利であるという側面もあります。

 なので、このような条項によりユーザーが受ける不利益が特に大きいというような事情がないのであれば、無効となる可能性は低いと考えられます。

3.3 無料から有料に切り替わる場合

 それでは、無料のお試し期間(または、割引期間)が終わった後は、ユーザーから事前に解約の申し出がない限り、自動的に有料の契約に切り替わるという条項はどうでしょうか。

 上記の例とは異なり、これは、新たな有料の契約が始まることで、ユーザーには料金の負担というデメリットがのしかかることになります。
 ユーザーとしては、無料だから契約・購入したのであって、有料でもこのサービスや商品を購入するかどうかは定かではありませんので、自分の意に反して、不要なサービス・商品を有料で購入することを強制されるという側面があります。このようなユーザーの不利益は大きいものといえます。
 このような条項は、改正消費者契約法10条により無効とならないよう十分に注意する必要があります。

 では、どのようにしたらよいかというと、ユーザーに対して、無料期間が終わると、解約の申し出をしない限り自動的に有料契約に切り替わることを明確にアナウンスし、ユーザーに契約更新をしないという意思表示をする機会を与えておくことが重要になります。

 具体的には、当初の申込みの際、申込みボタンの近くに、無料期間終了後に有料契約に切り替わることを記載しておくことが1つの方法です。このようにしておけば、ユーザーが有料契約に切り替わることがわかった上で申し込みをしたと言いやすくなります。
 さらに、有料契約に切り替わる前に、「○○までに解約の申し出をしないと自動的に有料契約に切り替わりますよ」という案内メールをユーザーに送っておくと、ユーザーに解約のチャンスをより与えていたといえるので、不当性が軽減され、さらに安全になるでしょう。

 逆に、このような内容が申込み画面には記載されておらず、利用規約の条項の中にまぎれて目立たないように記載してある程度だと、消費者がこれを認識して申し込みを行ったとは言い切れない可能性があり、消費者にとって不意打ちになってしまいかねません。このような状況だと、自動更新条項が無効となってしまう可能性がありますので、ご注意ください。

4 まとめ

 以上見てきたように、ウェブ上でのサービスの提供や定期購入契約でよく用いられる自動更新条項は、改正消費者契約法10条により無効とされる可能性がありますので、その運用にあたっては注意が必要になります。
 特に、最初は無料期間を設けておいて、一定期間経過後に、解約の申し出がない限り、有料契約に切り替わるという条項を置く場合には、無効となる可能性が高まります。
このような条項を置く場合には、申し込みボタンの近くに無料期間経過後は自動的に有料に切り替わることを表示しておくなど、ユーザーにしっかりとアナウンスを行い、有料契約に切り替わる前に解約を行う機会を与えておくことが重要になります。
 ユーザーが有料契約に切り替わることを認識できないような運用になっていると、ユーザーにとって一方的に不利な条項として無効となってしまう可能性がありますので、十分ご注意ください。

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