電気通信事業者が守るべき通信の秘密とは!?

ECサイトや、プラットフォームサイトを運営する場合、その中に、ユーザー同士のチャット機能を設置することは少なくないのではないでしょうか。

この場合に、サイト運営者は電気通信事業を営むものとして、電気通信事業の届け出をしなければならないことは以前ご説明しました。

このとき電気通信事業者に課される重要な義務をご存知でしょうか。

「通信の秘密は、侵してはならない」

今回は、この一文に秘められた重大な内容を解説していきます。

電気通信事業の届け出については、下記の記事をご覧になってください。

1 「通信の秘密」

電気通信事業法4条
1 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

このように電気通信事業者は、通信の秘密を守ることを義務付けられています。

「通信の秘密」は、憲法にも規定があります。(憲法21条2項)

すなわち、本来は、国が侵してはならないとされているものを、電気通信事業者も侵してはならないと規定しているのが、電気通信事業法なのです。

通信の秘密とは、もともと郵便などを想定したものでした。

例えば、Aさんが、Bさんに手紙を送る際、この手紙を運ぶ人が、手紙の中を覗いてはいけないということです。

現代では、電話やメールが普及し、通信の秘密の範囲が広まっています。

そして、プラットフォームなどにおけるクローズドチャットもまた、AさんとBさんしか見ることを想定していないものとして、通信の秘密の対象となっているのです。

2 「通信の秘密を侵す」って?

電気通信事業者が侵してはならない「通信の秘密」とは何か、「秘密を侵す」とはどういうことか、順にみていきましょう。

2-1 「通信の秘密」

電気通信事業者が侵してはならないのは、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密」です。

・「電気通信事業者の取扱中に係る通信」

「電気通信事業者の取扱中」とは、発信者が通信を発した時点から受信者がその通信を受けるまでの間をいい、電気通信事業者の管理支配下にある状態のものを指します。

プラットフォームサイトを通じて、チャットでやり取りをする場合には、これに該当します。

かみ砕くと、サイト運営者の管理支配下にあるサイトを通じて、チャットの内容が送信され受信されるということです。

「取扱中に係る通信」が対象なので、その通信中はもちろんのこと、情報伝達行為が終了した後も当該情報は保護対象となるということを示しています。

・「通信の秘密」

「秘密」とは、一般に知られていない事実であって、他人に知られていないことにつき本人が相当の利益を有すると認められる事実のことを言います。

電話や電子メールなどの特定者間の通信は、通常、その通信当事者しか関与することが想定されないため、その通信内容の秘密性が推定されることになります。

そして、「通信の秘密」には、通信内容だけでなく、以下の要素も含まれています。

  1. ・通信日時や場所
  2. ・当事者の氏名等の個人識別符号
  3. ・通信履歴など知られることで通信の意味内容が推知されるような一切の事項

2-2 「通信の秘密を侵す」

「秘密を侵す」とは、端的には、故意をもって他人の秘密を暴くことをいい、一定の範囲にとどまる秘密たる事実を範囲外に出るようにすることを指します。

したがって、「通信の秘密を侵す」というのは、通信当事者以外の「第三者」が、積極的意思をもって、知得し、漏洩し、窃用することをいうのです。

電気通信事業者も、通信当事者から見たら「第三者」に他なりません

よって、電気通信事業者が、理由もなく通信内容を保存したり、漏洩したりすることは許されないのです。

3 通信の秘密の侵害が許される場合

通信の秘密を侵すことが、例外的に許される場合があります。

大きく二つに分けて、通信当事者の同意がある場合と、その他の違法性阻却事由がある場合です。

3-1 当事者の同意

通信当事者の同意があれば、その通信内容等を知得することなどは、当事者の意思に反しないといえるため、適法となります。

場面は違いますが、フィルタリングサービスなどはまさにこれです。

しかし、同意はただあればいいものではありません。

例えば、約款などを利用して、事前に包括的な同意を得たとしても、有効な同意とは言えないとされます。

通信の内容が将来のものであるため、当事者にとって、放棄することを意思決定するだけの予測可能性がないからです。

また、一方当事者の同意だけでは足りないというべきでしょう。

通信内容には、発信者のみならず、相手方の秘密も含まれていることがあり、その「秘密」を侵すためには、相手方の同意も必要というべきです。

3-2 違法性阻却事由

そのほかに、刑法上の正当防衛や緊急避難が成立する場合には、通信の秘密を侵しても違法性が阻却されます。

また、通信の秘密を侵すような行為が、正当な業務上の行為といえる場合には、やはり、違法性が阻却されることになります。

正当業務行為としては、通信事業者が課金・料金請求目的で顧客の通信履歴を利用する行為などがあると考えられます。

4 通信の秘密を侵した場合の罰則

電気通信事業者が、通信の秘密を侵した場合には、刑事罰があります。

電気通信事業法第179条
1 電気通信事業者の取扱中に係る通信(中略)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 電気通信事業に従事する者(中略)が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。

第1項が、通信の秘密を侵した場合の一般的な罰則です。

電気通信事業者が、通信の秘密を侵した場合には、刑が加重されていることを示すのが、第2項です。

まとめ

電気通信事業者は、その定義通り、「他人の通信を媒介する者」です。

「他人の通信を媒介する者」が、その通信内容を自由に閲覧し、外部に漏らしていたら、ユーザーは安心して、利用することができません。

国としても、GAFAに、通信の秘密の規制を適用することを検討するなど、かなりの関心事項であると考えらえます。

サービスとして成功させるためにも、ユーザーの安心感を得るためにもくれぐれも気を付けてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士飯岡謙太

担当者プロフィール

IT事業者の皆様は、一般的な取引トラブルに限らず、IT事業であるからこその特別の法的問題に直面することがあります。また、一口にEC・プラットフォームサイト運営といっても、インターネットを利用するが故に、実店舗販売とは異なる様々な規制に配慮する必要があります。これらの法的問題について、最善の予防策や、トラブルに対する適切なアドバイスをご提供いたします。


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