意外と細かな就業規則の作成ルール
- 公開日:2019/6/6 最終更新日:2019/06/04
- 労務
IT事業者の皆様はきちんと就業規則を置いているでしょうか。
「就業規則って絶対作らなきゃいけないの」
「名前はよく聞くし、とりあえず作ったけど、何の意味があるかはよく知らない」
今回は、就業規則の意味やその内容について解説していきます。
目次
1 就業規則の作成義務
IT事業者の皆さんは、一定の場合には、就業規則を作成しなければなりません。
そして、その作成にあたっても、事業者側の一存でその内容を定めることはできないのです。
1-1 協議と作成
労働基準法89条1項
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
このように、IT事業者の皆さんは、常時10人以上の労働者がいる場合は、就業規則を作成し届出する義務があります。この労働者には、正社員のほか、契約社員やパートタイム労働者であっても、常時雇用しているのであれば数に入ります。
一方で、派遣労働者は、派遣元の労働者としてカウントされることになり、派遣先の労働者としてはカウントされないことに注意が必要です。また、人数のカウントは、事業場ごとに行う必要があります。会社全体として、常時10人以上雇用していても、事業場単位に分割すると、10人未満になる場合には、一応、法律上の作成届出義務はありません。
もっとも、就業規則は、労働条件の明確化という意味を持つものです。
したがって、作成義務がない場合でも、就業規則を作成することに意味はあるといえます。
そして、就業規則を作成する場合には、労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者の意見を聞く必要があります(労基法90条1項)。ただし、これは、労働組合等の同意がなければならないという規定ではなく、単に意見を聞く必要があるということを定めているのみです。
確かに法律上は全面反対の意見があっても、効力に影響しませんが、労働者側の意見を全く聞いていない就業規則を定めても、むだにトラブルの種を増やすだけです。会社から労働者が離脱する原因にもなりますので、労働者の意見はある程度尊重するようにしてください。
1-2 届け出と周知
IT事業者の皆さんは、作成した就業規則を労働基準監督署長に届け出なければならない場合があります。それは作成義務と同じで、「常時10人以上の労働者」を雇用している場合です(労基法89条)。
そして、届出の際に、先ほど説明した労働組合などの意見を聞いた書面を添付しなければなりません。また、作成した就業規則は、労働者に対して周知する必要があります。(労基法106条1項)
周知の方法としては、法律で以下の方法が定められています。(労基法規則52条の2)
- ・常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
- ・書面を労働者に交付すること。
- ・磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
1-3 罰則
これらの就業規則の協議作成、届出、周知を怠った場合には、罰則が科されることもあります(労基法120条1号)。
2 就業規則の記載事項
就業規則に記載しなければならない事項については、法律上の規定があります(労基法89条)。
2-1 必要的記載事項
- ・始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- ・賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- ・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
就業規則に必ず記載しなければならない事項は、以上の3つです(労基法89条1号~3号)。
3つといっても細かく読むと、それなりに定めなければいけないことはあります。
相対的記載事項も含め、これらの就業規則への記載内容は、別に一つの就業規則にまとまっている必要はありません。
「賃金規程」や「退職金規程」といった形で、一部の要素を取り出してまとめることも可能です。
2-2 相対的記載事項
- ・退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- ・臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
- ・労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
- ・安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- ・職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- ・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- ・表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
- ・前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
以上の事項は、それぞれの制度を実施する場合には、就業規則への記載が必要とされている事項です。
後で説明するように、就業規則に定めた内容は、労働者との契約内容となり、労働者のみならず事業者をもその内容で縛ります。
不必要な条項を定めたり、あまりよく考えずに不利益な条項を定めたりしてしまうと、後になって変更することには困難が伴います。
くれぐれも気を付けるようにしてください。
2-3 任意的記載事項
必要的記載事項と相対的記載事項は、法律上定める内容が決まっています。
しかし、法律上定めることが決まっていない内容でも、就業規則に定めること自体に特に問題はありません。
しかし、気を付けなければならないのは、就業規則として定めると、この後説明するように、就業規則の内容が、労働者との契約内容となってきます。
不必要な事項まで定めて、自分の首を絞めるようなことにはならないようにしてください。
3 就業規則の法的性質
まず、就業規則が法律上はどのような意味を持つのか確認したうえで、就業規則が労働者との関係で適用されるのはどのような場合かを見ていきましょう。
3-1 就業規則と契約などとの関係
労働基準法92条1項
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。労働契約法12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働契約や就業規則、はたまた労働基準法は以上のような関係にあります。
図示すると以下の通りです。
就業規則に焦点をあてると、労働基準法に反してはならない一方で、労働契約で労働者に有利な内容に変更することはできるということです。
労働基準法と就業規則がそれぞれ最低基準としての機能を持っているということです。
逆に言えば、この最低基準さえ満たさない就業規則や労働契約の条項は無効となり、最低基準による契約内容と考えられるということです。
そのため、就業規則の内容を、あまりに労働者に有利に、ひるがえって事業者に不利に定めると、それが最低基準となってしまいます。
後で説明するように、就業規則を労働者の不利益に変更することは原則認められていないところでもあるので、慎重に定めるようにしましょう。
3-2 就業規則の変更と労働契約
就業規則を定めた場合、労働者との間で、就業規則が労働者との契約内容となるのは以下の場合です。
労働契約法7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
契約の内容となった以上は、使用者の一存でその内容を変更することはできなくなります。とくに、労働者に不利益な変更は原則として許されません。(労働契約法9条)
例外的に以下の条件を満たす場合には、就業規則の変更によって、労働者との労働契約の内容が変更されることになります(労契法10条)。
- ①変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、
- ②就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
3-3 蛇足(約款規制)
興味のある方はこういう問題もあるのか程度に読み流してください。
従来から就業規則の法的性質の説明として、約款に類似した性質であることが挙げられることがあります。
すると、改正民法における定型約款規制が適用となるかどうかという問題があります。
この点は、法制審議会の部会資料でも、労働契約の雛形は定型約款にあたらないという当然といえば当然のことは確認されている一方で、
就業規則が定型約款に当たるのか、当たる場合には先ほど説明した就業規則の変更と約款の変更(新民法548条の4)との適用優劣はあるのかなどが未解決のままです。
労働関連法制が特別規定として、民法の規定より優先的に適用されることが考えられますが、今後の議論に期待しましょう。
まとめ
さて今回は、就業規則に焦点を当てて解説をしました。
就業規則は、いわばその会社内におけるルールであり、それに反することはIT事業者側も労働者側もすることができません。
よく考えずに作成してしまうと後から変更することが難しいことは先ほど説明したとおりです。
ぜひ、就業規則の作成にあたっては、自社の運用や慣行にあった内容で作成するようにしてください。