仮想在庫モデルで在庫業者に配送を依頼する場合に下請法の規制を受けるか

 いわゆる仮想在庫モデルで販売を行っているEC事業者さんは、お客さんから注文を受けた場合、在庫を持っている業者さんに依頼して、直接商品を配送してもらうことが多いでしょう。この場合、他の業者さんに商品の配送を委託するという点で、下請法が適用されるのでは?と心配になられる方もいらっしゃるのではないかと思います。

 結論としては「No」なのですが、なぜ適用されないのかについて解説していきたいと思います。以下では、一応、下請法が適用される資本要件(1.2)や、下請法が適用される場合の義務(1.3)などについても説明していますが、結論だけを知りたいという方は、「1.1」→「2」の順にお読みください。

 

1 下請法の概要

1.1 下請法の対象となる取引

下請法の対象となる取引は、以下の4つです。
①「製造委託」(下請法2条1項)
②「修理委託」(下請法2条2項)
③「情報成果物作成委託」(下請法2条3項)
④「役務提供委託」(下請法2条4項)

この中で、今回問題になりうるのは、④「役務提供委託」なので、以下これについて解説します。

まずは条文から。

下請法2条4項 「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部または一部を他の事業者に委託すること(・・・省略・・・)をいう。

条文だとわかりにくいですが、例を挙げると、

  • ビル管理会社が、ビルオーナーから請け負うビルメンテナンス業務をビルメンテナンス業者に委託すること
  • 運送業者が、請け負った運送業務のうちの一部を他の運送業者に委託すること
  • 自動車ディーラーが、請け負う自動車整備の一部を自動車整備業者に委託すること
  • ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託すること

などが、「役務提供委託」にあたるとされています。

 

1.2 事業者の規模(資本関係)に関する要件

 下請法は、大企業が中小零細企業に対し、その力関係を利用して不当に有利な条件等で取引することを防ごうというのが目的なので、委託する側と受託する側の規模(資本の大きさ)に着目した要件を定めています。以下の4パターンです。

〇パターンA(下請法2条7項1号)
委託する側:資本金の額3億円を超える法人
受託する側:個人、または、資本金の額3億円以下の法人
適用される取引:①~④すべて

〇パターンB(下請法2条7項2号)
委託する側:資本金の額1000万1円~3億円の法人
受託する側:個人、または、資本金の額1000万円以下の法人
適用される取引:①~④すべて

〇パターンC(下請法2条7項3号)
委託する側:資本金の額5000万円を超える法人
受託する側:個人、または、資本金の額5000万円以下の法人
適用される取引:③「情報成果物作成委託」と④「役務提供委託」のみ

〇パターンD(下請法2条7項4号)
委託する側:資本金の額1000万1円~5000万円以下の法人
受託する側:個人、または、資本金の額1000万円以下の法人
適用される取引:③「情報成果物作成委託」と④「役務提供委託」のみ

 

1.3 「役務提供委託」の場合に下請法において禁止される行為

下請法が適用される場合、「役務提供委託」において、委託する側は、以下の行為を行うことが禁止されています。

  • 下請代金の支払遅延(下請法4条1項2号)
  • 下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。

  • 下請代金の減額(下請法4条1項3号)
  • あらかじめ定めた下請代金を不当に減額すること。

  • 買いたたき(下請法4条1項5号)
  • 類似品等の価格または市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。

  • 購入強制(下請法4条1項6号)
  • 委託する側が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。

  • 報復行為(下請法4条1項7号)
  • 受託する側が委託する側の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由として、受託する側に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

  • 割引困難手形の交付(下請法4条2項2号)
  • 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。

  • 経済上の利益の提供要請(下請法4条2項3号)
  • 受託する側から金銭、労務の提供等をさせること。

  • 不当な給付内容の変更、やり直し(下請法4条2項4号)
  • 費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後に不当にやり直しをさせること。

 

2 仮想在庫モデルの商品配送の委託は下請法の規制を受けるか

 では、本題です。

仮想在庫モデルの場合、

という流れになるわけですが、この中で「(事前の契約に則って)メーカー等在庫業者に、お客さんへの商品の配送を依頼」の部分が、配送業務等を委託しているとして、「役務提供委託」にあたるのでは?と疑問が出てくるところです。

 結論としては「No」なのですが、その理由はというと、下請法の規制対象になる「役務提供委託」にいう「役務」とは、委託する側が他者に提供する役務のことであり、委託する側が自ら利用する役務は含まれません。

 今回は、「他者」は一般消費者であるお客さんになるわけですが、商品を運送するという業務は、仮想在庫モデルによる販売を行っているEC事業者さんが、お客さんから注文された商品を渡すために、付随的に自ら行うもので、「他者に提供する役務」ではなく、「自ら利用する役務」になります。

 ですので、「役務提供委託」にいう「役務」にはあたらず、規制の対象にはなりません。

 下請法の「役務提供委託」となる例として挙げた、ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託する場合、販売事業者が「顧客サポートサービス」自体をお客さんから依頼され、これをお客さんに提供しているので、「他者に提供する役務」にあたり、これを他の事業者に委託することは、「役務提供委託」にあたるわけです。

 上記の違いはちょっと分かりにくいかもしれませんが、「役務提供委託」にいう「役務」にあたるかどうかのメルクマールは、委託する業務自体が、「他者に提供する役務」なのかどうかということです。言い換えれば、お客さんに対して「サービスとして提供している業務」かどうかとも言えます。

 

3 まとめ

 今回の仮想在庫モデルにおける商品の配送業務は、この業務自体をお客さんにサービスとして提供しているということではないので、役務提供委託にはあたらないんだと理解していただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士南史人

担当者プロフィール

ビジネスへの理解と特有の法的なリスクがあるIT・EC業界に精通している弁護士として、多くのIT・EC事業の経営者の相談に乗ってきた実績を持つ。常に経営者目線でのアドバイスを心掛け、スピード感を持った専門性の高いサービスを提供している。


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