民法改正によりどう変わる? 〜利用規約に関する新しいルール〜

今回、民法が改正され、平成29年6月2日から3年以内に実際に効力が発生し、新しい民法のルールが適用されることになります(具体的な効力発生日は、これから決められる予定です)。
 民法改正では、「定型約款」に関するルールが新たに定められており、EC事業者やウェブサービスを提供する事業者が出されている利用規約も、一般的にはこれにあたるため、事業に大きな影響があるものと思います。
 そこで、今回は、改正法で定められる「定型約款」に関するルールを見ていきたいと思います。

 

1 民法の新ルールが適用される「定型約款」とは?

EC事業者やウェブサービス事業者が出されている利用規約や取引条件を定めるものは、一般的には「定型約款」にあたり、民法の新ルールが適用されることになります。

改正法は、「定型取引」に関して、その取引の契約内容とすることを目的として、事業者が準備した条項の総体を「定型約款」と定義し、「定型約款」に関する新たなルールを設けています。
「定型取引」というのは、以下の2つの条件を満たす取引のことをいいます(改正法548条の2第1項柱書)。

  1. ・不特定多数の者を相手として行う取引であること
  2. ・その取引内容が画一的であることが双方にとって合理的であること

EC事業者やウェブサービス事業者が行われる取引は、ウェブを通じて、不特定多数の購入者・サービスの利用者を相手として行う取引で、その性質上、サービス内容などが画一的であることが双方にとって合理的である、といえると思いますので、通常は「定型取引」にあたると思われます。
そして、その取引のための利用規約は、「定型約款」として、民法の新ルールの適用を受けることになります。

 

2 利用規約の内容に拘束力を持たせる方法(改正法548条の2第1項)

これまでは、EC事業者、ウェブサービス事業者は、利用者から利用規約に同意するというチェックボックスにチェックをしてもらうなどの方法で、利用者から利用規約の内容(個別の条項)について同意をとられていたかと思います。同意の取り方などについては以下の記事に詳しく書いています。(参照:正しい利用規約の設置方法)

新ルールでは、個別の条項についての合意をとらなくても、個別の条項に合意したものとみなすことができる場合を定めています。
具体的には、以下の内容になります。

「定型取引」を行うことを合意した者が、

  1. 定型約款を契約の内容とすることに合意をしたとき(1号)

または

  1. 定型約款を準備したが、あらかじめその定型約款を契約の内容とすることを相手方に表示していたとき(2号)

①は、利用者が、利用規約を契約の内容とすることに同意することで、個別の条項にも同意したこととして、利用規約に拘束されるというものです。具体的には、「利用規約を契約の内容とすることに同意する」旨のボタンをクリックしてもらうなどの措置を講じておくことで対応できると思われます。

②は、定型約款を契約の内容とすることを表示しておけばよく、定型約款自体を示すことは必要ありません。利用規約の内容を表示せずとも、利用規約を契約の内容とすることを、ウェブページ上で相手がきちんと認識できる形で一方的に表示しておくことで足ります。
そうすれば、利用者は、その利用規約に拘束されることになります。

これらのいずれかを行っておけば、利用者が利用規約に合意したものとみなして、その内容(個別の条項)に拘束されることになります。

 

3 不当な条項は排除される(改正法548条の2第2項)

ただし、利用者が、無条件で利用規約に拘束されることになるかというとそうではありません。一定の場合には、不当条項として、利用者が拘束されない場合もあります。

まずは条文から。

相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意しなかったものとみなす(改正法548条の2第2項)。

これは、利用者が、利用規約の内容を具体的に認識していなくても、その内容に拘束力を持たせることにしている反面、その分利用者を保護するために設けられた規定です。
「信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる」ものが排除の対象になっており、具体的にどのような条項がNGなのかは、明確ではありません。ただ、その取引類型において一般的に行われているより著しく利用者に不利なものに関しては、この規定に反して無効になってしまう可能性がありますので、ご注意ください。

また、消費者契約(事業者と消費者の取引)において、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされており(消費者契約法10条)、これは、上記の不当条項の規制とは別なので、注意する必要があります。ただ、規制の内容としては、相当似ていますので、無効とされる範囲も、それほど違わないとは思われます。消費者契約法10条については、右記の記事をご参照ください。(参照:利用規約の法律的に有効な作り方

 

4 利用規約の変更方法に関するルール(改正法548条の4)

当サイトでも、利用規約の変更に関する記事を書いていますが(参照:利用規約の変更にサイト利用者は拘束されるか!?)、新ルールの中で、利用規約を途中で変更する場合の方法が新たに定められました。
これまでは、基本的に、変更した内容について利用者から何らかの合意(明示的ではなく、黙示的なものも含む)をとるしか、変更の方法はなかったのですが、個別に相手の合意をとることなく、利用規約の内容を変更できるというルールが定められました。

4.1 利用者にとって有利な内容に変更する場合(改正法548条の4第1項1号)

以下の事項を、インターネットの利用その他の適切な方法により周知しておけば、変更について利用者の合意をとらなくても、利用規約の変更は有効です(改正法548条の4第2項)。

  1. ・利用規約を変更すること
  2. ・変更後の利用規約の内容
  3. ・変更するタイミング(効力発生時期)

このようにしておけば、利用者は、変更後の利用規約に拘束されることになります。
具体的には、ウェブ上に上記の事項を掲載しておく、利用者に一斉送信でメールを送っておくなどの方法によればよいと思います。

4.2 利用者にとって不利な内容に変更する場合(改正法548条の4第1項2号)

利用者にとって不利な変更の場合には、以下のような内容についての制限があります。

契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして「合理的なものである」こと(改正法548条の4第1項2号)。

こちらの内容については合理性が要件になっており、これもまた抽象的な内容となっていますが、利用規約による契約内容のうち重大な部分を変更するとなると、「契約した目的に反」することになる可能性があります。
また、一般的に、ウェブサービスにおいて、料金を大幅に上げるような場合には、利用者が被る不利益が大きいので、利用者が自由に契約を解約できるような補償的な措置をするなどの配慮が必要になるかもしれません。

なお、一般的な利用規約には、「利用規約を変更することができる」として、その手続などを定めている例が多いと思いますが、その手続に則れば、どのような内容にでも変更できるということではありません。利用者の合意をとらずに、利用者に不利な変更をする場合、上記の要件を満たす必要があります。

ただ、「合理的な」変更かどうかを判断する際に、「定型約款を変更することがある旨の定めの有無及びその内容」も考慮することになっていますので、当初の利用規約で、あらかじめ変更することがあること、変更の対象・範囲・要件などを定め、そのとおりに変更したのであれば、合理性の判断において、有利な事情として考慮される可能性があります。利用規約において、変更についてあらかじめ定めておくことはまったく無駄ではありませんので、定めておいた方がよいでしょう。

また、不利益に変更する場合にも、「4.1(改正法548条の4第1項1号)」の手続は必要になりますので、しっかりと行うようにしてください。

 

5 利用規約の内容を表示する義務(改正法548条の3)

契約前、契約後にかかわらず、利用者から請求があった場合には、利用規約(定型約款)の内容を示さなければなりません
利用者からの請求があった場合に示す義務なので、請求がなければ示さなくてもよいです。示す方法は、「相当な方法」とされており、利用規約がウェブ上に掲載されている場合には、その掲載ページを案内するなどということでよいでしょう。

契約前に利用者から請求があったにもかかわらず、利用規約の内容を示さないと、利用規約の個別条項について、合意をしたものとはみなされないことになるので、ご注意ください(改正法548条の3第2項本文)。

 

6 まとめ

今回の民法改正で、利用規約などの「定型約款」に関するルールが整備され、平成29年6月2日から3年以内のいずれかの時点で、このルールが適用されることになります。EC事業者やウェブサービス事業者には、大きな影響が出る部分ですので、新ルールの適用に備え、その内容を理解し、対策を講じていくことが必要になります。

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