インターネット上で他人の登録商標を付した商品を販売したり、広告を出したりすると、商標権侵害行為に該当します。もっとも、日本の商標法は、条約にように国際的な効力を有する法規ではないので、海外の販売業者に対して日本の商標法に基づいて権利を主張できるかは別途検討しなければなりません。
目次
1 基本的な考え方
海外サイト上での商品の販売や広告が日本国での商標権を侵害するかどうかを考えるためには、国際的な視点が必要になります。
以下で、まず国際的な法律の考え方を解説します。
1-1 日本の法律を適用できるか?
海外サイトでの商品販売・広告行為が日本の商標権を侵害するかどうかは、まず、日本の商標法を適用できるかどうかという問題をクリアしなければなりません。
この点について、法の適用に関する通則法第17条は、「加害行為の結果が発生した地の法による。」と規定しており、加害行為によって直接に侵害された権利が侵害発生時に所在した地を意味しています。
そのため、海外サイト上での商品の販売や広告も、一定の場合には、日本の商標法を適用することができるようになります。
1-2 属地主義とは!?
原則として、日本で取得した商標権は、日本国内でのみ有効であるため、商標権の効力も日本国内での商標権侵害行為にのみ及びます。このことを「属地主義」といいます。
したがって、日本で取得した商標権を他人に主張するには、その他人が日本国内で商標権侵害行為を行っていることが必要なのです。
商標法は、日本国内の消費者に対して商品の販売、役務の提供を行う商標権者の業務上の信用を保護する法律です。そのため、海外サイト上での商品の販売、役務の提供行為が、日本国内の消費者を対象とするものであれば、商標権者の日本国内での業務上の信用が害されたといえるので、商標権侵害の成立が認められます。
1-3 日本の裁判所に裁判を提起できるか?
海外サイトでの商品の販売や広告であっても、日本国内での商標権侵害が認められれば、日本の商標権に基づいて損害賠償請求や差止請求の裁判を提起することができます。
このとき、日本の裁判所に裁判を提起することができるかどうかは、民事訴訟法という法律で決められています。
つまり、日本に住所等を有する自然人(会社でない個人)や日本の法人等である場合、外国の法人であっても日本国内に主たる事務所や営業所を有する場合、商標権侵害行為(=不法行為)が日本国内で行われたと認められる場合には、日本の裁判所に裁判を提起することができます。
2 海外サイト上で日本の商標権を侵害する具体例
前記のとおり、海外サイト上での商品の販売、役務の提供行為が、日本国内の消費者を対象とするものである場合には、日本の商標権を侵害する行為に当たります。
以下で、商標権侵害になるかどうか、いくつか具体例を挙げて紹介します。
2-1 違法コピー・ソフトウェアの広告
日本語のページが用意されているA国の違法コピー・ソフトウェア販売サイトにおいて、各違法コピー・ソフトウェアについて、オリジナルのソフトウェアの登録商標と同一の標章を表示して広告されていた場合に、商標権侵害は成立するのでしょうか。
日本語のページが用意されている販売サイトを展開しているのであれば、そのサイトは、日本国内の需要者に対応するためのものであるといえます。
そのため、この場合には、商標権侵害が成立する可能性が高いと考えられます。
2-2 真正品の広告
日本への配送料が明記されているB国の高級カバンの販売サイトにおいて、正規のメーカーから仕入れた真正商品について、当該商品の登録商標と同一の標章を表示して広告されていた場合は、商標権侵害が成立するのでしょうか。
真正商品を広告しているのであれば、基本的には、商品の出所の識別機能や品質の保証機能を害することにはならず、商標権侵害は成立しないと考えられます。
したがって、この場合には、商標権侵害が成立する可能性は低くなります。
2-3 日本未発売の自転車の外国での広告
日本の自転車メーカーが自転車の車名について商標登録を行っていたところ、日本円への換算機能が用意されているC国の自転車販売サイトにおいて、D国の自転車メーカー製造の日本未発売自転車について、上記商標登録された自転車の車名と同一の車名を表示して広告されていた場合はどうでしょうか。
通常の消費者(需要者)は、海外のショップから自転車のパーツを取り寄せるなどの行為を日常的に行っています。そうすると、日本円への換算機能が用意されている販売サイトは、日本国内の需要者に向けたものであるといえます。
したがって、このようなサイトで商品の広告を行う行為は、商標権を侵害する可能性が高いと考えられます。
2-4 外国でのピザの宅配
日本の宅配専門ピザ・チェーンが商品であるピザの商品名について日本で商標登録を行っていたところ、E国のF市を宅配地域として展開している宅配専門ピザ・チェーンの宅配受付サイトにおいて、特定のピザについて、上記商標登録された商品名と同一の商品名を表示して広告されていた場合、商標権侵害は成立するのでしょうか。
まず、宅配の地域が外国であることから、日本国内の需要者に向けた広告であるとはいえません。また、日本への輸入も考えられにくいです。
したがって、このような広告は、日本の商標権を侵害するとはいえません。
2-5 並行輸入されている自転車の外国での広告
日本の自転車メーカーが自転車の車名について商標登録を行っていたところ、ヨーロッパのG国の自転車ディーラーのウェブサイトにおいて、小型大衆車について、上記商標登録された社名と同一の車名を表示して広告されていた場合はどうでしょうか。なお、当該小型大衆車は、G国から日本にも輸入されているものの、日本では別の車名で販売されていたとします。
そもそも、日本国内の需要者が海外のディーラーからインターネットを介して直接自動車を通販で購入することは考えられにくいです。仮に輸入するとしても、少数の自動車を輸入するために多額の輸送費等をかけるのは現実的ではないと考えられます。
したがって、自動車という商品の特質、ディーラーという海外事業者の性質から、この場合には商標権侵害は成立しないと考えられます。
3 侵害者への対応
海外サイトで商標権侵害行為を発見した場合、まずは、調査会社に依頼をし、その侵害者の身元を調査することになります。一般的な海外調査会社に依頼すると、10~20万円の費用がかかります。
また、商標権侵害の証拠をしっかりと押さえておく必要があります。海外の侵害者によってサイトを閉鎖されるなどすると、足取りを追うのが困難になるからです。例えば、その侵害者の販売する商品を実際に侵害者から購入するなどして、会社の名称、所在地、連絡先の番号、メールアドレスなどの証拠を保全するべきです。
そして、調査会社から侵害者の会社の情報の報告を受けたら、その侵害者に対して警告文を送付します。遅くともこの段階までに、弁護士等の専門家に相談して、①商標権侵害になっているかどうかの相談、②警告文の作成の依頼をすることが望ましいといえます。
侵害者から警告文への反応がない、あるいは差止請求に応じないなどの場合には、日本で裁判を提起できるときは裁判を提起します。日本の裁判所でできないときは、海外の裁判所に裁判を提起することになります。
4 まとめ
上記のとおり、海外サイトで商品の販売や広告をしたからといって、日本の商標権者の商標権を侵害しない行為とはならないケースもある一方で、サイト上での広告が日本国内の需要者(消費者)に向けたものであると考えられる場合には、商標権侵害が肯定されます。
商標権を取得した事業者の方は、海外サイト上での商標権侵害行為であるからといって、日本で裁判を起こすことをあきらめる必要はありません。
もっとも、海外サイト上での商標権侵害の場合、国際的な法律や侵害者の調査の問題が生じることから、弁護士などの専門家に相談した方が良いでしょう。