電子掲示板や口コミサイトに違法な書き込みがなされた場合に、管理者はどのように対応すればよいのか?

電子掲示板や口コミサイトなどを運営していると、他人の名誉を傷つけるような書き込みがされたり、他人の著作権を侵害するような書き込みがされ、被害者から、書き込みを削除するよう申し出を受けることがあります。こんな場合、管理者は、削除すべきなのか、そのまま放置すべきなのか、迷われることも多いのではないでしょうか。
 今回は、違法な書き込みがなされた場合の対応方法をご紹介します。

 

1 管理者が書き込みを放置した場合の責任

まずは、書き込みを放置した場合に管理者に生じ得る責任について見ていきます。

1.1 不法行為責任として被害者に損害賠償をしなければならない場合

他人の名誉を傷つける(名誉棄損)ような書き込みや、他人の著作権を侵害するような書き込みがなされ、被害者から、削除の申出があったにもかかわらずこれを放置した場合に、掲示板の管理者などが、被害者に対して損害賠償責任を負うとした裁判例がいくつもあります。
自身が書き込んだわけではないから責任を負わないということはありませんし、たとえ利用規約で、違法な書き込みを禁止しているからといって、責任を免れられるわけでもありません。このようにタカをくくっていると、痛い目にあいます。
 そのような書き込みがされていることを全く知らなったのに責任を負うかというとそういうわけではありませんが、少なくとも、

・権利侵害が明らかである
・被害者から削除を求められて書き込みの存在を知ったにもかかわらず、長い間放置していた

このような場合には、損害賠償責任が認められる可能性が高いです。

1.2 プロバイダ責任制限法による損害賠償責任の限定

プロバイダ責任制限法は、違法な書き込みなされた場合に、管理者が損害賠償責任を負う場合を限定しています。対象になるのは、「特定電気通信役務提供者」です。【プロバイダ責任制限法2条3項】が、電子掲示板の管理者や口コミサイトの管理者は、通常これにあたります。
 プロバイダ責任制限法は、少なくとも、以下のいずれかの場合でなければ、損害賠償責任を負わないものとして、責任を負う場合を限定しています(プロバイダ責任制限法3条1項)。

  1. 書き込みを削除することが技術的に可能であって、かつ、書き込みにより他人の権利が侵害されていることを知っていたとき
  2. 書き込みを削除することが技術的に可能であって、かつ、書き込みがされていることを知っており、その書き込みにより他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき

このように、少なくとも、書き込みの削除が技術的にできない場合や、書き込みがなされていること自体を知らなかった場合には、損害賠償の責任は負いません。ただ、通常、管理者であれば、書き込みの削除は可能でしょうし、被害者から申告があった場合には、書き込みがなされていること自体は把握しているでしょうから、プロバイダ責任制限法により、必ず免責されると断言できるケースは少ないと思います。
 やはり、損害賠償を負わないためには、被害者から申告があり、これは違法ではないかな、と合理的に判断できる場合には、削除の対応をした方がよいということになります。

 

2 管理者が書き込みを削除した場合の責任

それでは、逆に、被害者の申出に基づいて、書き込みを削除した場合に生じ得る責任について、見ていきましょう。

2.1 書き込みをした人から責任を問われる場合

管理者が書き込みをした人との間で利用規約などを結んで、サービスを提供してもらっている場合、管理者と書き込みをする人との間で、利用規約に基づく契約が成立しています。書き込みの削除をしてよいかどうかは契約内容によることになりますが、権利侵害にはあたらない書き込みを無断で削除してしまったとなると、サービスの提供が不十分(法律的には、債務不履行といいます。)ということで、契約に基づく料金の支払いが受けられなくなったり、書き込みをした人から損害賠償請求をされてしまう可能性もあります。

2.2 プロバイダ責任制限法による損害賠償責任の限定

プロバイダ責任制限法は、管理者が書き込みを削除した場合についても、以下のいずれかにあたる場合には、損害賠償責任を負わないとして、その責任を限定しています(プロバイダ責任制限法3条2項)。

  1. 書き込みにより他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があり、書き込みの削除が必要な限度にとどまるとき
  2. 被害者から書き込み削除の申出がなされた場合に、書き込みを行った人に対して削除に同意するかを照会したが7日間を経過しても同意しない旨の申し出がなく、かつ、書き込みの削除が必要な限度にとどまるとき

1.は、「不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」というのが、抽象的な定めになっているので、削除してよいものかどうかの判断に迷うところです。
 2.は、書き込みをした人への意見照会を行い、応答がなければ書き込みを削除できることが確実になりますので、安心感はあります。ただ、手続が面倒ということもありますし、仮に、書き込みをした人から、削除に同意しないという回答があったら、使えないという難点はあります。

 

3 どのように対応すべきか

このように、被害者からは書き込みを削除してほしいと言われ、書き込みをした人からは削除する理由はないと言われ、管理者としては、削除すべきなのか、削除しない方がよいのか分からず、板挟みになってしまう可能性があります。そのような場合には、以下のように対応するのがよいでしょう。

3.1 利用規約の規定を工夫する

まず対応としては、書き込みをする人との間で結ぶ利用規約に、違法な書き込みがなされた場合には、管理者側で書き込みを削除できるという規定を入れておくことが必須といえます。規定の仕方としては、禁止される内容の書き込みを列挙し、その他、管理者が権利侵害と判断した場合には削除することができるという規定を入れておけば、管理者が違法と判断する書き込みを、柔軟に削除することが可能になります。このような規定を入れておくことで、書き込みを行った人から削除したことについてクレームを受けたとしても、「利用規約に則って適切に対処しています」というふうにしっかりと反論できます。

3.2 本当に権利侵害があるかをしっかりと確認する

また、被害者からの申告内容が事実なのかどうかを、しっかりと確認することも重要です。書き込み自体から名誉棄損であることが判断できる場合はよいですが、たとえば、著作権侵害だと言われても、それが本当なのかどうかが分からない場合も多いと思います。そのような場合は、被害者から、本当に著作権侵害があるという証拠を出してもらって、それに基づいて判断するようにしてください。そこで、本当に権利侵害があると判断できた場合に削除する、権利侵害があるというには不十分ということであれば削除しない、という対応がよいでしょう。
 そして、その際の判断材料をしっかりと残しておくということも大切です。そうしておけば、後から不当に削除されたというクレームを受けたときに、適切な判断材料に基づいて判断していたという反論ができます。
 重要なことは、権利侵害だと判断した場合には、書き込みを早急に削除するということです。権利侵害が明らかなのに、これを長期間放置してしまうと、損害賠償責任を問われてしまう可能性がありますので、十分ご注意ください。

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