「著作物」が写真・映像に写り込んでしまったら、著作権法違反!?【弁護士が教えるEC運営者のためのIT著作権法対策⑤】

著作権_写り込み

 さて、本日も著作権についての記事を書きます(著作権の記事一覧はこちらを参照。)。今回は、写真等を撮影して、ブログにアップ等した場合にポスター等他人の「著作物」が入ってしまったとか、他人の著作物である美術品を撮影したんだけどブログに挙げて大丈夫なの!?とかそういうことに応える記事となります。他にも、屋外でビデオ撮影をしていたら、スーパーから流れてくる音楽が入ってしまった!なんて場合もありますよね。

1 原則として、許諾がなければ著作権法上問題となる場合

 まず、他人が作成したポスター等が撮影した写真や映像に写り込んでしまった場合、その撮影行為は、著作権法上の問題となる「複製」(著作権法21条)に当たり得るし、それをブログ等WEB上にアップする行為は、「複製」(著作権法21条)及び「公衆送信」(著作権23条)に当たり得るものです。
 ただし、他人の著作物が写り込んだとしても、その画像からそれが何なのかわからないような場合まで、著作権法上の問題とされたら、たまったものではないですよね。そこで、どのような写り込みだと問題にならないのか、なるのかという点が気になるところです。
 この点について、日本の裁判例等は、「複製」や「公衆送信」等の著作権法上の問題となる「利用」というには、「一般人の通常の注意力を基準としてつつ、著作物の創作的表現内容を直感感得することができる程度に再現されているかどうか」で判断するとしています。
 つまり、その他人の「著作物」が単に識別できるという程度の写り込みだけでは著作権法上問題となる利用行為とはいえず、常識からして、その著作物の表現の特徴を感じることができる場合に、「複製」や「公衆送信」になるよといっています。これだけだとわかりにくいので、例を挙げると、ポスターだと一部がみえるのみで、メッセージ等までは伝わらない場合では問題にならないけど、メッセージ等まで伝わってしまう場合は著作権法上問題となるということになります。

2 「1」であるとしても、適法に許される場合(改正著作権法を中心に!)

 とはいっても、IT等の発達に伴い、現在は撮影等を日常的にすることが増えてきました。意図しない写り込みの問題は、日常茶飯事起こります。その実態をとらえて、最近著作権法について、下記の条文ができました。

(付随対象著作物の利用)
著作権法第30条の2  写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2  前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

長いし、例のごとくかなりわかりにくいですよね。。。この規定は、写り込んだ他人の著作物の著作者の許諾を必要としない場合を定めています。
 全体との構成をいうと、最初の文章(著作権法30条の2第1項)が映り込みがあった写真や映像を作成することが許される場合、2文目(著作権法30条の2第2項)がその映り込みがあった写真・映像等を利用することが許される場合を規定しています。
 以下、この二つを見ていきましょう。

2.1 写り込みがあった写真・動画等の作成が許される場合とは!?(著作権法30条の2第1項について)

 上記条文の1分目を読み解いてみると要するに

① 写り込んだ他人の「著作物」を分離することが困難であること(分離困難性)
② 写り込んだ他人の「著作物」が、作成する写真や動画等への影響が軽微(軽い)であること(軽微性)
③ 写り込んだ他人の「著作物」の著作権者の利益を不当に害しないこと(利益不侵害性)(

といっています。
 

2.1.1 ①写り込んだ他人の「著作物」を分離することが困難であること(分離困難性)

 ①の分離困難性については、意図して撮影したのではなく、たまたま偶然入っていたといえるかどうかという意味で考えて良いでしょう。今回のテーマのように意図せず写り込んでしまった場合には、問題なく認められるでしょう。
 

2.1.2 ②写り込んだ他人の「著作物」が、作成する写真や動画等への影響が軽微(軽い)であること(軽微性)

 次に、②の軽微性ですが、写り込んでしまった他人の「著作物」が、作成した映像等に占める物理的な割合や質的な影響が小さいことが必要です。質的な影響は分かりにくいのですが、例えば、たまたま撮影場所で音楽が流れていて動画に入ってしまった場合はOKでも、その音楽を最初から最後まで録音する意図で撮影しちゃダメです!ということです。今回のテーマはたまたま意図せず写り込んでしまった場合ですので、この要件も満たすでしょう。
 

2.1.3 ③写り込んだ他人の「著作物」の著作権者の利益を不当に害しないこと(利益不侵害性)

 最後に、③の利益不侵害性ですが、これは、現在・将来にわたって写り込んだ「著作物」と作成される写真・動画等の「著作物」が市場として衝突するか、写り込んだ「著作物」の販路等を阻害するかで判断するようです。こういう言い方だと難しいですが、例えば「税務に関するDVD」の動画に、他人の著作物である「税務に関するDVD」を写り込ませて、自分のDVDの価値を上げる意図がある場合等が考えられます。通常は、こんなことはまず起こらないとは思います。

2.2 写り込みがあった写真・動画等の利用が許される場合とは!?(著作権法30条の2第2項について)

 さて、次に、「2.1」で、許諾を必要としない適法に映り込みがあるとされた場合に、その写真や動画の「著作物」を利用する行為について、著作権法30条の2第2項が定めているというのは上述の通りです。
 この条項は、「2.1」で、適法な映り込みのある写真・動画であれば、原則としてブログにアップしたり、ユーチューブに上げたりする行為もOKですよといっています。
 ただし、「2.1.3」と同様、元の著作権者の利益を不当に害する場合には、例外的に許されないとしいます。例でいうと、上記と似ていますが、「税務に関するDVD」の動画に、他人の著作物である「税務に関するDVD」を写り込ませる場合等です。

2.3 具体例(許諾なく許される適法な写り込みと許諾が必要な写り込み)

 以下、具体例として文化庁HPで挙げられている例を引用しておきます。

引用元 いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備について(解説資料)-文化庁HP

2.3.1 許諾なく適法に許さる写り込みの例

○ 写真を撮影したところ,本来意図した撮影対象だけでなく,背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
○ 街角の風景をビデオ収録したところ,本来意図した収録対象だけでなく,ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
○ 絵画が背景に小さく写り込んだ写真を,ブログに掲載する場合
○ ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を,放送やインターネット送信する場合

2.3.2 許諾がなければ、許されない写り込みの例

○ 本来の撮影対象として,ポスターや絵画を撮影した写真を,ブログに掲載する場合
○ テレビドラマのセットとして,重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し,これをビデオ収録した映像を,放送やインターネット送信する場合
○ 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で,写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

なお、〇正しい引用方法はこちらの記事(笑)

3 その他の注意点(美術品が写り込んでいる場合は!?)

その他、意図しない写り込みとは少し違いますが、美術の著作物(彫刻やモニュメント等)を撮影してブログやサイトにアップすることもあるかと思います。
 この場合には、原作品が屋外に恒常的に設置されている場合には、この美術の著作物をメインとした撮影が許されます(著作権法46条3号)。なので、記念に写真を撮ってブログ載せる等もOKです!
 ただし、その画像・動画等の販売目的の場合は許されないので要注意です。

4 まとめ

 以上から、わかることは、意図せず自分の「著作物」(写真や動画)に、他人の「著作物」が入ってしまった場合であっても、常識的に使用するのであれば、著作権侵害にはならないと考えて良いと思います。
 EC運営者やブロガーが、ブログにアップする画像や映像に意図せず写り込みがあっても、あまり気にしなくて大丈夫でしょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

ピクト法律事務所

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