ノークレーム・ノーリターン(苦情・返品は受け付けない!)特約があるとどうなるの!?【ITオークションの法律問題③】

ノークレーム・ノーリターン

 前回、前々回とインターネット(IT)・オークションに関係する記事を書いてきました(インターネット(IT)・オークションに関する記事一覧)。今回は、オークションで良く利用されているいわゆる「ノークレーム・ノーリターン特約」について書きたいと思います。
 
 

1 ノークレーム・ノーリターン特約の意味とは!?

 「ノークレーム・ノーリターン」特約とは、出品者が落札者に対して、「苦情や返品は受け付けません」という意思の表示です。つまり、そのことを了承した上で、落札して、購入してね!っていうことなのです。
 実際のインターネット(IT)・オークションでは、その商品等を実際見て確認せずに契約をすることになるので、後から予想外に「キズ」ついていた等の理由で、落札者からクレームや返品が入ることが多いため、出品者が工夫をしてこれをつけるようになりました。

 もう少し法律的に説明すると、出品者(売主)と落札者(買主)の間で売買契約が成立した場合には、売主は買主に対して、「瑕疵担保責任」という責任を負います。何やら難しい言葉ですが、商品に欠陥(キズがある場合や数量が足りない場合等)がある場合に、買主は、契約を解除したり、損害賠償請求ができるといったことを定めたものです(民法561条~572条)。
 ノークレーム・ノーリターン特約は、この「瑕疵担保責任」はなしでお願いね!!という意味で使用されるのです。

2 ノークレーム・ノーリターン特約が無効な場合!?

 このサイトは耳たこですが、民法には契約自由の原則というものがありますので、当事者が合意しているのであれば、原則として、この特約も有効となります。
 でも、このノークレーム・ノーリターン特約を全面的に認めてしまうと落札者(買主)はどんなにひどい商品が届いても泣き寝入りしなければならない!!みたいな状況を引き起こしてしまう危険があります。
 そこで、法律はどんな場合でも、この特約を全面的に有効としているわけではありません。

2.1 出品者(売主)が「事業者」で、落札者(買主)が「消費者」の場合

 理由等の詳細は消費者契約法に関する記事を読んでいただきたいとのですが、出品者がECサイト事業者や企業や個人事業主である等「事業者」場合で、かつ、落札者(買主)が「消費者」(事業者でない個人)である場合には、消費者契約法8条1号3号5号に基づいて、ノークレーム・ノーリターン特約は無効になります。
 ノークレーム・ノーリターン特約は、「事業者の責任をすべて免責する条項」にあたるので無効になるのです。
 ただし、ノークレーム・ノーリターン特約の契約上の効力は無効となりますが、特定商取引法上の「法定返品権」と認めない旨の表示としての効力はありますので注意して下さい。ここでは、詳細は書きませんが、「法定返品権」の詳細はこちらの記事に書いてありますのでご覧下さい。

2.2 出品者(売主)が「欠陥」を知っていたのに告げなかった場合

 出品者がキズや汚れの存在を知っていたにもかかわらず、これを隠していたような場合にまで、ノークレーム・ノーリターン特約の効力を有効とするのは問題ですよね。
 そこで、このような場合には、その特約は無効となると法律は定めています(民法572条)。
 そして、常識で考えれば、出品者はその欠陥がわかるだろうという程度の事実があれば、「知っていた」と認めれると考えれます。

3 まとめ(対応策)

 それでは、以上を踏まえて、出品者(売主)・落札者(買主)が取るべき措置を見ていきましょう。

3.1 出品者(買主)がすべきこと

 出品者としては、ノークレーム・ノーリターン特約を結んでおくことに問題はありませんが、やはり情報提供は適切にしておくことをお勧めします。例えば、中古品のため中央にキズが入っていますと表示しているとそれがそもそも契約内容になるため、「欠陥」にはあたらなくなります。ですので、分かる範囲でクレームがつきそうなところは、説明しておいた方が良いでしょう。値段もそれを前提につけるわけですから、安すぎると不審がられることも少なくなります。

3.2 落札者(売主)がすべきこと

 落札者(買主)としては、不明な点を出品者に質問しておくという対策が考えられます。ただし、あくまでも「中古品」にはある程度の劣化があるのが通常ですので、その辺りは想定して買い物をすべきです(この程度だと「欠陥」(「瑕疵」)とはいえません。)。また、やはり商品が見れるわけではないので、ある程度のリスクも計算しながら、利用することになるでしょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎

担当者プロフィール

自らもECサイトや新規事業(税務調査士認定制度等)の立上げや運営を行ってきた弁護士。
多くのベンチャー企業や新規ビジネスの立上げ等について、法律的なアドバイスのみでなく「パートナー」としてかかわっている。
得意分野は、ECサイトやIT関連企業を初めとして企業法務と税法

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